ゲームが始まる

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 少女とのゲームが終わった。  互いにいい汗をかいている。雲は風に流され消えていき、太陽が野外のコートをまばゆいほどに照らす。  夕方になり、復興イベント『希望のボール』は閉幕した。  バスケになじみのない少年、少女たちも、無垢な笑みを浮かべていた。  反対意見もあったが、開催して良かったと、今なら言える。 「吉里さん。今日は本当にありがとうございました」  宇佐美が草太に深々と頭を下げる。 「いえ、こちらこそ。とても意義のあるイベントになったと感じております」 「わざわざ本土の方が残島に来てくださるなんて。なんて感謝を述べたらいいか」 「とんでもありませんよ」  草太は胸の前で手を振った。 「本土行きのフェリーを準備しております。そこまで車で送迎しますね」  ちょっとお待ちください、と言い残し、宇佐美は駐車場に車を取りに向かった。  夕景が淡いオレンジの光を島に注いでいる。  優美な空を見つめていると、後ろに人の気配を感じた。  草太は振り返る。 「キミはイベント来てくれた・・・・・・花立南さん、だよね」  少女を見つめた。  彼女は何か言いたげな表情を浮かべている。 「南さん。もしかして強化選手の件、考えてくれたのかな」  少女はまわりに誰もいないことを確認してから口を開いた。  その薄い唇には色気にも似た艶やかさがある。 「強化選手になれば、本土にいけるんですか」  少女の声を聞いて草太は違和感を覚えた。  この声は・・・・・・ 「ここを抜け出せますか」 「ああ。そうなるね。というか南さん」  草太は疑念のこもった声でたずねる。 「もしかしてキミは、男なのかい」  南は唇を結んでから、ゆっくりとうなずいた。 「はい・・・・・・」  頭上に稲妻が走ったような衝撃を受けた。まさか女の振りをしてプレイをしていたなんて。 「どうして女の子の振りを」  たずねてからすぐにその訳を察した。  この残島では、男は復興の労力として扱われるのだった。
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