ゲームが始まる

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「吉里さん」  少女、いや、少年は草太を真っ直ぐと見つめる。 「な、なんだい」  まだ動揺している。 「女じゃないと、強化選手になれませんか」 「いや、そんなことはない。キミほどの素質があれば、男子のほうでも推薦できる」  少年は安堵の色を浮かべた。  夕日を浴びる少年の美しいまなざしを見て、草太は先ほどのプレイを思い返した。  草太は日銭を稼ぐためにバスケットをしていた。  少年は少女の振りをして、この残島で生きるためにバスケットをしていた。  スポーツを通した復興イベントだなんていうけれど、  どちらもバスケットボールをただの生きる手段にしていただけだ。  そこに純粋なスポーツの精神はあったのだろうか。  スポーツマンシップとは何なのだろう。 「一度、本土に戻り。推薦状を作成してくるよ」 「よろしく、お願いします」  南は頭を下げる。  震災で家族を失い、この残島で生き抜くために性別を偽ってきた少年。  その小さな胸にはどれほどの絶望が蠢いていただろうか。 「さっきのゲーム。マジで楽しかったです」  南は笑った。  その笑顔は草太の何かを貫いた。  草太はしばらくの間、動くことさえできない。 「どうしました?」  南が首をかしげる。 「ああ。本当に楽しかった」        自分でも自分の感情の意味が分からない。  唇の端にしょっぱいものが垂れてくる。  どうして泣いているんですか? 南の声が耳をかする。 「またプレイしましょう。吉里選手」     握手を求められ、草太はそれに応じる。だが声が出ない。  南は手を離す。 「今日から私は・・・・・・じゃなくてボクは・・・・・・夢を見て生きていきます!」  少年は大きく手を振って島の宿舎へと走っていった。  
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