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車の音が近づいてきた。
おそらく宇佐美が手配したくれた車だ。ひび割れた道路を白の軽自動車が走ってくる。
草太は手の甲で涙をぬぐった。
ずっと生活のためと思いバスケットをやってきた。
いつからだろう、バスケットを道具と思うようになったのは。
『マジで楽しかったです』
少年の声が耳の奥で反芻する。どんな音楽よりも勇気をくれる音だった。
そうだ、本当に楽しかった。
そう、ただそれだけだ。
少年とのプレイは心のそこから興奮した。
スポーツの本質をまじまじと感じさせられた。
草太の胸の底に、純粋な想いが宿りはじめた。
―――もう一度彼とバスケットをしてみたい―――
彼が次はどんなプレイを見せてくれるのか見てみたい。
宇佐美が車から降りてこちらへと近づいてくる。
「吉里さん。お待たせ・・・・・・」
彼女が口を開くと同時に草太は頭を下げていた。
「あ、あのう。どうされました」
「宇佐美さん、悪い。まだちょっと帰れないです」
困惑する宇佐美の顔に、草太は両手を合わせた。
〜完〜
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