野菜と煙草と元カノと

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 携帯で時間を見る。  診察室を出てまだ二時間も経っていない。それなのにこの短い時間の内に青天の霹靂のような余命宣告で、茫然自失になったり人に親切にしようとして逆に傷付いたり、見慣れた景色に感動して涙ぐんだり架空の命拾いをしたり。  ひとり孤独に予測不能のジェットコースターに乗っていたような、目まぐるしくて濃密なこの約二時間は……きっと誰かのミスを介して神様が不甲斐ない僕に与えた、僕が見落としていた大切な何かへの気づきの時間だったのだ。こう考えることで今の気持ちに折り合いをつけるなんてことじゃなくて、僕は素直にそう思うことにする。優香には言うまい。  優香が電話に出たら先ずはこう言おう。 「これからスーパーに寄って野菜を買う。僕が作るから今夜一緒に野菜サラダを食わないか。あのガラスのサラダボウルに山盛りで」    それからこうも言う。 「今日から僕は野菜をモリモリ食うし、今日から僕は煙草を止める」    優香ならきっと気づいてくれるだろう。  野菜に向き合うことと禁煙の誓いが、僕から優香への逆説的なプロポーズだということを。               END
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