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渋谷天音
「渋谷選手! 早く打席に入りなさい!」
「すんませーん」
審判に促され、俺はバッターボックスに立つ。
不思議と脳裏に浮かんだのは子供の頃の情景だった。父に連れられて行った球場で、生で見たスター選手のプレーに心奪われた。初めて覚えた、得も言われぬ高揚感に突き動かされるまま、その場で父に「将来プロ野球選手になる」と宣言したんだっけ。
足を上げ、投球動作に入った投手の動きが、スローモーションに見える。
もう合コンは行けないなぁとか、パパラッチって面倒臭いのかなぁとか、とりとめもないことを思う。
投手の右腕からボールが放たれる。弾丸のようにまっすぐ飛んできたそれは、俺の目の前で急激に軌道を変え、外に逃げるように沈んでゆく。俺はそのボールに向け最短距離でバットを伸ばす。
バットとボールが衝突し、火花が散る。
後には引けない。だけど迷いはない。覚悟ならもう、決めた。
そう、今日から俺は。
「スーパースターだ……!」
渾身の力を込め、俺はバットを振り抜いた。
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