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試合は延長戦の末サヨナラ勝ち。ロッカールームに戻った俺は、歓喜に賑わうチームメイトたちを尻目に中止になった合コン……ではなく、さっきの青木のホームランについて考えていた。
打った瞬間に同点を確信し、腕を天高く突き上げる青木の後姿。一斉に立ち上がるスタンドの観客。ガックリと膝に手を置く投手。その全てが、一枚の高尚な絵画のように俺の脳裏に焼き付いて離れない。不思議な高揚感が胸の鼓動を独りでに早めてゆく。
この感じは、あの時と同じ……。
胃の底から形容し難い感情がせり上がるのを感じ、俺はたまらずロッカールームを飛び出した。
飲み物でも飲んで落ち着こう。そう思い、自販機を目指し歩き始めた、その時だった。
「そろそろ限界のようだな、青木」
少し先の通路にある休憩スペースから声が聞こえ、反射的に足を止めた。
監督の声……それと、青木? 限界って何のことだ? 何か、内緒話のようだけど。
思わず聞き耳を立てる俺の耳に、今度は青木の声が届く。
「何の話です? あぁ、腹が減って我慢の限界って意味ですか? それじゃ一丁、この後飯でも……」
「つまらん冗談はよせ。わかっているはずだ」
監督が強い口調で遮る。
沈黙。しばらくして、青木がハァと息を吐いた。
「ハハ。やっぱり、監督に隠し事はできませんね」
「笑い事じゃないだろ、ったく。……なぁ、そろそろ正直に話してくれないか? 実際のところ、相当悪いんだろう?」
「そうですね。……わかりました。では正直にお話しします。俺の、左膝の怪我について」
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