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監督との密談から約一か月後、梅雨真っただ中の6月中旬。俺の不安をよそに、未だチームに異変は起こっていない。
が、相変わらず問題はあった。
「つーか、最近ジーパン入らなくなっちゃって困ってんだよね。他の服もパツパツだし、合コンに何着ていけばいいんだよって感じでさぁ」
試合前練習中。いつものようにうるさく談笑している渋谷軍団に雷を落とす。
「こらぁっ! さっさと練習に入れテメェらぁ!」
「すっ、すいませんでしたぁっ!」
脱兎のように走り去る若手野手陣を見送った後、慌てる様子もなくゆっくり立ち上がる渋谷に近づきつつ、怒鳴りつける。
「おい、何度も何度も言わせるな! お前もいい加減真面目に練習、を……」
あれ? と思った次の瞬間、俺は口を噤んでいた。立ち上がった渋谷を見た時、不意に覚えた言い知れぬ違和感。それが出かかった言葉を喉の奥に押し留めた。
「あん? なんだよおっさん」
首だけ振り返った渋谷の後ろ姿に、俺は違和感の正体を悟った。
こいつ、いつのまにか身体がデカくなっている?
「チッ……無視かよ。用がないならもう行くぜ」
俺は何も言えず立ち去る渋谷を見送った。チラと盗み見た彼の手のひらは、真っ赤に腫れ、尋常じゃない数の豆ができていた、ように見えた。
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