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試合は序盤から両チーム、持てる戦力を存分に注ぎ込む総力戦となった。次から次に点が入るシーソーゲーム。手に汗握る展開に、球場のボルテージも高まってゆく。
9回裏。1点ビハインドで迎えたエンジェルズの攻撃。先頭打者が出塁したものの、後続が簡単に倒れてしまう。
ツーアウト、ランナー1塁。そして、次のバッターは3番、渋谷。
「渋谷! なんとしても青木に繋げ! 今のお前の調子なら必ずできるぞ!」
絶叫にも似た監督の声を背に、俺は激痛に顔を歪めながらネクストバッターズサークルに向かう。
正直、左膝は限界だった。こんな状態で打てるのかと不安が胸をよぎるが、即座に頭を振ってそれを打ち消す。
弱気になるな、俺はスーパースターだぞ! 何度も頭で繰り返す。今の渋谷なら、きっと繋いでくれる。だから俺はその期待に応え、最後にスーパースターとしての背中を彼の目に焼き付けよう。
たとえ、この膝がぶっ壊れても!
覚悟を決め、靴ひもを結び直そうとしゃがみ込んだ、その時だった。
「よう、おっさん」
突然の呼びかけに驚いて顔を上げると、打席に立っているはずの渋谷が目の前にいた。
「よく聞け。一度しか言わねぇ」
渋谷は俺に二言だけ告げ、踵を返し打席に向かう。俺はまたしても何も言えず、ただその背中を呆然と見つめていた。
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