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「ん~!一生分寝た気分」
アルトは伸びをしながら呟き、絶対安静と言われて寝かされていたベッドから飛び起きた。
そして鏡で自分の顔をマジマジと眺める。
綺麗な金髪のサラサラな髪の毛。
クリクリで大きな愛らしい瞳は、美しいエメラルドの瞳をしている。
何より、アルトに抱き着いていた美少女と瓜二つの顔に
「マジか……」
と呟く。
アルトに抱き着いていたのは、紛れもなく前世で自分が「七緒夢」というペンネームで書いていた異世界ファンタジー作品「月の巫女と七人の騎士」で、幼い頃に双子の片割れを亡くし、その悲しみから救ってくれた主人公のメイン攻略対象であり、この国の第一皇子。
フランシス・ド・アルファスに執着しまくり、主人公を虐め抜いて最後は殺される運命の悪役令嬢、アリアナ・フィルナートだった。
(……という事はだ )
アルトは自分の顔を見つめながら考える。
自分はアリアナの双子の兄で、作品中にアリアナが実家に帰る度に見つめては泣いていた、家族の肖像画に描かれていたアルト・フィルナートなんだと気付く。
しかも、本来なら死んでいる筈だ。
アルトは5歳の時、アルトの真似をして木登りをしていたアリアナが、手を滑らせて木から落ちて来たのを助けたのだが、その時に運悪く頭を石に強打して死んでしまうという、なんとも残念なキャラだ。
言わば、モブにさえもなれないモブ。
モブ界の中でさえもモブにしてもらえない
King of モブ。
そんなアルトに転生してしまい、尚且つ、物語では死んでいる筈がバリバリ元気に生きている自分に驚く。
「どうなっているんだ?」
首を傾げていると、部屋のドアがノックされた。
「はい」
アルトが返事をすると、部屋のドアがゆっくりと開いてアリアナが可愛らしい顔をひょっこりと覗かせた。
「アリアナ、おはよう」
アルトが笑顔を向けると、アリアナは可憐な花が咲綻ぶかのような可愛らしい笑顔を浮かべ
「アルト!」
と名前を呼んで抱き着いて来た。
「アルト、生きているのよね」
アルトが目覚めてからというもの、毎朝、毎朝、アリアナはアルトが生きているのかを確認しに来ているのだ。
「大丈夫だよ、アリアナ」
優しくアリアナの身体を抱き締めると、アリアナは嬉しそうに微笑みながら
「今日から外に出ても良いのですよね?」
とアルトの手を握り締めて顔を覗き込む。
(くっ!今日もアリアナたんが超絶可愛くて尊い!)
心の中で鼻血を噴き出しながら、身体は5歳児。
心はアラフィフのアルトが頭を抱える。
そしてアルトは、心に固く誓った事がある。
(こんなに愛おしくも可愛いアリアナたんを、絶対に破滅エンドなんかさせない!)
そもそも、アリアナが悪役令嬢になってしまうのには二つ理由がある。
一つは、自分の双子の片割れ。
アルトの死だ。
これが一番の要因であっても良いと言えるのだろう。
そして二つ目。
物語には出てこないが、実はアリアナには幼い頃から心に思っていた相手が居るのだ。
これは作者のみが知る、いわゆるプロットには名前があるが登場することの無いモブにもなれない登場人物その2。その名もロベルタ・ラキシード。
実はゲームの方の続編から、攻略対象として登場する予定だった人物だ。
彼はラキシード公爵家の跡取り息子で、アルトとアリアナの幼馴染であり、アリアナの初恋の相手だ。
互いに想い合い、結婚の約束をしていた二人。
しかし、アルトの死がこの二人を引き裂いてしまうのだ。
アリアナが木登りしたきっかけは、アルトとロベルタが木登りしていたのを真似した事なのを知り、それがきっかけで、ロベルタは海外へ留学して付き合いが疎遠になってしまうのだ。
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