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後日、ラキシード家より、アリアナに正式な婚約の申し出があり、元々、ラキシード家とフィルナート家は旧知の仲だった事もあり、婚約は正式に受理された。
(これで、アリアナが孤独に打ちひしがられる事も無く、腹黒王子に入れ込む事も無くなった)
ホッと胸を撫で下ろすアルトに、母親のエミリアが困った顔をしてサロンでお茶を飲んでいる姿が見えた。
「母様、どうなさったのですか?」
アルトが近付いて行くと、嬉しそうに手を叩き
「アルト!良い所に来ましたわ!」
と叫ぶと、アルトの手を取り
「実はアリアナのドレスの仮縫いが今日、届くのですが、あの子ったらロベルタ様とベッタリで。仮縫いに時間を取られたくないなんて我儘を言い出して困っていたの」
そう言い出したのだ。
アルトはその言葉を聞いて、「しまった!」と顔を顰めた。
2人の母親エミリアはお洒落が大好きで、とかくアリアナを可愛らしく着飾らせる事に命を懸けていると言っても過言では無いほどだった。
そして母の野望その2は、まだ性別の区別がはっきり着く前に、アリアナとアルトを双子コーデして着飾らせる事だった。
あのアリアナが、ドレスの仮縫いをすっぽかす訳が無い。
母親の策にハマった事に気付いた時は、後の祭りだった。
「まぁ!まぁ!アリアナ様と、サイズがピッタリでいらっしゃいますわ!」
「アルト様、本当にお可愛らしくていらっしゃる!」
フィルナート家御用達のデザイナー、メアリー·アンがそう叫び、使用人達も感嘆の溜め息を漏らす。
その様子を、エミリアは逃げ出した筈のアリアナと色違いのドレスを着せられて困惑するアルトの姿を満足そうに眺めていた。
すると、それを見ていたロベルタに「ぷッ」と吹き出され
「アルト、性別を間違えたのでは無いか?」
なんて言われたので、アルトは悔しさと恥ずかしさでその場を逃げ出してしまう。
「あ!アルト様、ドレスをお脱ぎにならないと!」
アリアナのドレスになるであろう、瞳の色と同じエメラルドの美しいドレス姿で屋敷から飛び出そうとして、玄関で誰かと正面衝突してしまう。
尻もちを着いてしまったアルトに、白い手袋をした手が差し出された。
「ごめん、大丈夫?」
思わず差し出された手を掴み、人物を見上げて絶句した。
青いスカイブルーの瞳。
切れ長の目に、美しいブロンドの髪の毛。
醸し出す気品とオーラに
(げ!フランシスだ!)
と、アルトは身体を硬直させた。
前世の自分が生み出したキャラではあるが、子供ながらにこれだけの美貌は息を飲む。
確か……アリアナとの出会いも、アルトを失って部屋に籠っていたアリアナを、王族としてフランシスがお見舞いに来たのがきっかけだ。
その時、アリアナは誰にも会いたくないと部屋を飛び出し、フランシスと正面衝突する。
そんなアリアナに、優しく手を差し伸べたフランシスにアリアナは恋に堕ちる。
(あ!これ、アリアナとフランシスの恋愛イベントだ!)
そんな事を考えていると
「アリアナ!何をぼんやりしているのですか?」
皇子の後ろから現れた父親にハッとすると
「失礼致しました。僕は、この家の長男。アルト.・フィルナートと申します」
ドレスを着ている事も忘れ、ご挨拶したアルトに
「長男?」
「え?あ……アルトー!」
驚いた顔をするフランシスと、顔面蒼白の父、アルファスの声が響いたのは、言うまでもない。
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