始まり

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始まり

ゆっくりと目を覚ますと、金髪に深いエメラルドの瞳をした麗しき男性と、同じく金髪にアクアマリンのような瞳をした絶世の美女が、涙を浮かべてアルトを見ている。 (だ……れ……?) ぼんやりとした意識の中、その二人の顔を見ると 「アルト!分かりますか?父様と母様ですよ!」 絶世の美女がアクアマリンの瞳に涙を浮かべ、ベッドで横たわる金髪の可愛らしい少年、アルトの頭を優しく撫でた。 アルトがゆっくりと頷くと 「アルト~!アルト、アルト~!」 何処から現れたのか、美しい金髪に大きな瞳は、目の前の男性と同じエメラルドの瞳をしている可愛らしい少女がアルトのベッドに飛び込んで来た。 その愛らしい大きな瞳からは、涙が滝のように流れている。 可愛らしい美少女は、アルトに抱き着くと 「(わたくし)のせいでアルトが死んでしまったらと思うと、夜も眠れませんでしたのよ!」 そう言うと、ギュッとアルトの身体を強く強く抱き締めた。 この美少女の名前はアリアナ・フィルナート。 アルトの二卵性双生児の妹。 二卵性双生児とはいえ、この頃の2人はまるで一卵性双生児なのでは無いか?と言われる程に良く似ていた。 生まれた頃から一緒のアルトとアリアナ。 特にアルトはアリアナにとって、唯一無二の自分だけの騎士(ナイト)だった。 アルトはいつだって、アリアナに優しくてお姫様のように扱ってくれる大切な双子の兄。 そんなアルトが、自分のせいで死んでしまうなんて気が狂いそうだった。 アルトは自分をキツく抱き締め、泣きじゃくるアリアナをぼんやりと見つめていた。 確かに自分はアルトで、その記憶はある。 優しい両親と、可愛い双子の妹との5年間の生活。 しかし、アルトとしての記憶とは別に、日本という国の東京で生活しいた記憶を思い出した。 事務仕事をしながら、40代半ばでBL作家として「七緒夢」というペンネームでデビュー。 でも現実は中々厳しく、小説で生活出来るまでにはなれなかった。 自分の才能の無さに悩み、悪評レビューの洗礼で何度も何度も筆を折ろうと苦悩と苦難の日々が続いた。 そんなある日。 無料投稿サイトに趣味で書いた「月の巫女と7人の騎士」(略してツキナナ)という恋愛小説が大ブレイクしてしまう。 最初は漫画化の話が持ち上がり、ゲーム化からあっという間にアニメ化された七緒夢の代表作だ。 どうやら七緒夢は、過去世で自分の書いた小説の世界へと転生してしまったらしい。 しかも、何故かアルトはアラフィフの時の記憶が蘇ってしまったようだった。 (なんでよりによって、アラフィフなんだよ!) と、心の中で叫んでみても、転生してしまったものは仕方無い。 見た目子供、頭脳は大人。 ……何処かの漫画で読んだような台詞に、思わず失笑してしまったらしい。 「アルト!どうしましたの?やはり、頭の打ちどころが悪かったのかしら?」 愛らしい少女の声に、アルトは首を横に振り 「心配を掛けてしまい、申し訳ありませんでした。もう、大丈夫です」 と答え、ふわりと少女に微笑んだ。 「アルト。(わたくし)、誓いますわ。二度と、木登りなんてしません。だから、どうか(わたくし)の傍にずっと居て下さいね」 縋るように見つめられて言われ、アルトは微笑んで頷いた。 どうやら、前世で自分が書いたストーリーとは違う世界になっているらしい。 そう、考えながら、アルトはぼんやりとこれからの事を考えていた。
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