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ずるずると玄関に座り込んで、鼻を啜る。涙でドロドロになったマスカラを手の甲で拭った。
渡されたCDには、今日の日付が書かれている。ばかだなこれ、音楽事務所に送るんじゃないの。そう思いながら立ち上がり、部屋の隅に置かれたCDデッキにCDを入れる。膝を抱えて、再生ボタンを押した。
聞き覚えのある曲。下手くそなギターと、無駄に上手い歌が流れ出す。
「ハッピーバースデー、トゥーユー、ハッピーバースデー……」
私は目を見開いた。なにこれ、なんで……
曲が終わり、小さな咳払いの後に、彼が話し始める。
「ええと、僕はほんとに不甲斐なくて、全然曲も冴えなくて、歌しか取り柄がなくて、こんな風にしか伝えられないので、歌いました。ええと……次の曲は、新曲です。聞いてください」
たどたどしく、つっかえながらそう話す彼。ラジオのパーソナリティには絶対になれなさそうだ、と涙を拭いながら私は笑う。
アコースティックギターのイントロの後に、彼は歌い出す。
曲はやっぱり冴えなくて地味で、歌詞はまるで中学生が書いたようなクサイもので。要約すると、「今まで支えてくれてありがとう、仕事が決まったよ、結婚してください」……そんな歌詞だった。
私は思わず口に両手を当てる。そうでもしないと、驚いて叫んでしまいそうだったから。
曲が終わり、また辿々しい彼のナレーションが入る。
「ええっと、曲の歌詞でわかると思うんだけど、レコード会社から歌手として使いたいと言われました。ええと、なので……結婚、して、ください」
ぷつん、とそこでトラックは終わる。私は弾かれたように立ち上がり、玄関を飛び出した。
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