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宏哉はB面に収録されるような曲しか作らない。
ただいま、とおざなりに言いつつアパートの扉を開けると、いつものようにギターの音が聞こえてくる。哀愁漂うバラード。そればっかり、と私はため息をつく。疲れた足を引きずりながら冷蔵庫に向かい、缶ビールを取り出してプルタブを起こした。
宏哉はまだ私に気づかない。ヘッドフォンをつけてパソコンに向かい、下手くそなギターを弾いているからだ。機材だけは立派なものを揃えていて腹が立つ。
そんな気持ちをごまかすように、ビールをぐいとあおった。乾いた喉にほろ苦いビールが沁み渡る。
いつまで経っても私の方を見ない彼に背を向け、駅前のスーパーで買った惣菜のコロッケを取り出した。いつ作られたのかわからないコロッケは油を吸いきっている。コロッケを包んでいる紙袋にはじんわりと油が滲んでいるし、20%引きのシールの上に50%引きのシールがべたりと貼られていた。
年を重ねるごとに、こんな風に値引きのシールがぺたぺた貼られている気がする。自分にも、宏哉にも。
口に入れたコロッケは冷め切っていて、ベタベタして、まるで今の私たちの関係みたい、とぼんやり思った。
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