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『ちょっと!!!!!』
「はいはい、怖い顔しない。」
スマホを取り返そうと手を伸ばすあたしに
その人はニヤリと笑いかけて、スマホをひょいっと引き上げた。
空を切るあたしの左手。
「そんな睨まないで下さい。」
『だって、橘クンが・・・』
「曜日がわからなくなるぐらいまで働くなんてどうかしてます、奥野センセ。」
『だからって・・・』
スマホを小さく振りながらそう呟いたのは
NICU(新生児集中治療室)専属の小児科医師の橘クン。
日詠クンと伶菜ちゃんの赤ちゃんである陽菜ちゃんの命を見事に救い上げた男。
新生児仮死で生まれてきてどうなるかわからなかった陽菜ちゃんが本当に危ない状況であったことは出産に立ち会ったあたしもよく知っている。
確か2才年下だけど、難しい症例でもひとりで難なく対応できる腕を持つドクター。
「じゃあ、“うん”って先に返事してくれたら、これ、返してもいいですよ。」
『は?』
交換条件?!
出た、ブラック橘・・・
本当ならできれば関わりたくない人種なんだけど
小児科(新生児集中治療室)医師としての腕がいいだけに
関わらないワケにはいかない
「大したことじゃないですから。」
『何よ。大したことじゃないって・・・・医局の仕事と押し付けるとかはあり得ないから。』
「そんなことじゃないですよ。」
『医局の仕事じゃなければ何よ!橘クンがフッた女性職員の愚痴を聴かされるとかもあり得ないから。』
関わらなきゃいけないのならと、とりあえず先手を打ってみた。
「・・・どういう風に見られてるんですか、俺。」
その結果、睨まれた。
怖いもの知らずなこのあたしが若干、後ろに仰け反るぐらい。
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