ストーカーの育て方

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 桜咲く季節。新章の始まり。新たな門出。今日から私は、中学生になった。  長年愛用をしたランドセルを肩からおろし、制服に袖を通す。少し大人になった気分で、胸はときめく。心がそわそわとしながらも、入学式を終え、初登校をする。  登校初日、知っている顔触れもちらほらと見受けられる。時折知らない顔を見ると、緊張が走る。ここはもう小学校では無いのだ、そう実感させられる、制服姿と見知らぬ顔。  教室に入ると、更に見知らぬ顔が増す。緊張は更に高まる。と同時に、期待感も溢れる。新しい友達は出来るだろうか?等々。  そんな私の視線を釘付けにしたのは、一人の男子生徒。鋭い瞳に、真っ白な肌、凛とした顔立ち。私はその場に硬直し、見惚れてしまった。きっと彼はメデューサだったのだろう。もしくは天使だったのかもしれない。余りにも美しかったのだ。  登校日早々、一目で彼に恋をしてしまった私は、その日から彼を視線で追い続ける様になった。視線のストーカーだ。一度彼を視野に入れてしまうと、視線から外せなくなってしまう、魔法に掛かったのだ。この魔法は厄介だ。  時折私の視線に気付く彼は、私の顔をじっと睨み付ける。その睨み付ける鋭い視線さえ、私を釘付けにする。数秒間、目と目が合う。この数秒間は、至福の一時だ。彼が私を見つめている。暫くすると、同時にお互いに視線を逸らす。魔法が解ける瞬間だった。この現象が、何度か繰り返されると、私の脳内は、彼の瞳の事で埋め尽くされる。鋭い視線、眼光。愛しくて愛しくて、食らい付きたくなる。取り出して飴玉の様に舐め回したい。  この現象が、一か月は続いた。だが彼から、苦情や文句を言われる事は、一切無かった。これは彼も、私と同じ気持ちなのでは?あの視線は、私への熱意なのでは?と思い始めた。  これ程までに互いに見つめ合っているにも関わらず、私達は未だに言葉を交わした事は無かった。否、言葉を交わす必要等無かった。私達は、互いに見つめ合うだけで、想いが通じ合えるのだ。私達は毎日そうして、互いの想いを伝え合っているのだ。  二か月が過ぎた頃、私達はトイレの洗面台でよく会うようになった。私がトイレから出ると、彼もトイレから出て来る。その時も互いに見つめ合い、アイコンタクトをして洗面台に仲良く並ぶ。私達はそこで、密会をしているのだ。二人だけの秘め事。心はなんだかこそばゆい。  教室では周りの目がある。だから偶然を装って、二人きりになれる場所。二人肩を並べられる場所。私達はより一層親密になった。  三か月が過ぎた頃、私達は部活後、教室でたまに待ち合わせをする様になった。  私が忘れ物のプリントを取りに行くと、彼は友人と教室で話しをしながら、待っていてくれる。私は彼の友人の目もある為、アイコンタクトだけして、プリントを取って教室から出て行く。  まるで私達は、ロミオとジュリエットの様だ。なんて素敵で美しい関係なのだろう。  四か月が過ぎた頃には、私達は一緒に登校をする様になった。学校まで私の家からは遠く、彼の家からは近い為、途中の道で彼と合流をする。  私が親に彼の通学路コースの近くまで車で送って貰うと、彼は丁度待ち合わせ場所にいる。周りの目もある為、私達は縦に並んで歩いて登校をしている。恋人同士の二人には、至福の一時だ。二人一緒に登校が出来るのだから。  五か月が過ぎた日、彼が浮気をした。他の女と喋っていたのだ。私と言う者がありがら、嬉しそうに楽しそうに話していたのだ。だが私は心の広い女だから、彼を許した。当然の事だが、彼が他の女に靡くとも思わなかったからだ。その女とは只の遊びに決まっている。彼が愛しているのは、この私だけなのだから。  だからと言って、何もしていない訳では無い。少し彼にお仕置きをした。私は次の日、学校を彼に無断で休んだのだ。きっと心配して、反省もしただろう。これに懲りれば、もう二度と他の女と、話をしたりなんかしない筈だ。  六か月が過ぎた夏の日、私は彼の目玉を口の中で舐め回していた。私の手は指先まで彼の真っ赤な血で染まり、その手の中には彼の温もりを感じる。  これは仕方のない事だったのだ。彼が他の女を見るから。その美しい瞳で、私以外の女を見るからだ。だから彼の瞳を私の物だけにする為に、抉り出して食べている。こうして一つになるのだ。彼と、私は。  彼なら眠っている。お腹から血を流しながら、眠っている。大丈夫、これは私と貴方の為にやった事。これからはもっと、私達は深い絆で結ばれる。
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