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5ー8 恋人たちの贈り物
トカゲの谷に戻った俺は、水を得た魚状態で忙しくたち働いた。
まずは、クローディア母さんとトカゲの谷の特産物として特別な織物を作れないかと相談を持ちかけた。
クローディア母さんは、以前からトカゲの谷の歴史を何らかの形で残したいと思っていたようで、俺は、それをタペストリーにしてみてはどうかと提案してみた。
「たぺすとりー?」
俺は、クローディア母さんにタペストリーとはどんなものかを説明した。
すると、クローディア母さんは、頷いた。
「織物で絵を描くのね」
俺は、クローディア母さんと話し合いながら錬成術で織り機を作った。
クローディア母さんは、レッドスパイダーの糸を何種類かに染め分けたものを使って織り機で布を織り始めた。
クローディア母さんのもとでは、何人かのトカゲの谷の女たちが染色やら織物やらに携わっている。
俺は、その内の何人かがかわいい髪飾りを髪にとめているのに気づいて彼女らに話しかけた。
「その髪飾りは、どうしたの?」
「これは」
彼女らは、染色の途中でできた余りの糸を編んで髪を飾る髪留めを作っていた。
俺は、その子達に頼んでその髪飾りをもっとたくさん作ってもらうことにした。
その子達の内の一人は、リリウスの家の者だった。
パメラという名前のその少女は、長い黒髪と黒い光沢のある尻尾を持った美しい娘だ。
リリウスの家には、親のいない子供たちがより集まって住んでいた。
パメラは、俺たちよりも7才ほど年上で今年の収穫祭の日に幼馴染みの少年シルビオのもとに嫁ぐことになっている。
トカゲの谷の娘たちは、結婚が決まるとみなクローディア母さんのもとを訪れて織物を教わることになっているようだった。
娘たちは、それぞれ一枚の羽織を丹念に作り上げる。
それは、愛する者へと贈るための物だ。
同じように結婚したい娘のいる若者は、トカゲの村で育てているマッドモウの子供を一匹分けてもらってそれを大きく育てて娘の家へと贈る。
娘の家では、その贈られたマッドモウを婚礼の祝の宴で集まった人々にご馳走としてふるまうのだという。
これは、俺たちがトカゲだった頃からの風習だった。
前は、食料とか変わった木の実だったものがマッドモウとか羽織にかわっただけだ。
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