1 進化の実と『渡り人』

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1 進化の実と『渡り人』

 1ー1 転生したらトカゲだった。  頭がずきんと重くて痛い。  どこか遠くで目覚ましのベルがけたたましく鳴っている音が聞こえて俺は、顔をしかめた。  また、朝がきた。  はやく、起きて会社に行かなくては。  そう思ってから俺は、はっと気づいた。  いや、俺、もう会社になんて行かなくってもいいんじゃね?  そうだ。  なぜなら、俺は、トカゲだから。  俺は、うっすらと目蓋を開いた。  木々の枝の向こうにぽっかりと青い空が浮かんでいるのが見えた。  うん。  きれいな空だ。  こんなきれいな空、見たことない。  そう思うと、なぜか、俺の目から涙がこぼれ落ちた。  ああ、俺、死んだんだな。  そして、俺は、トカゲに転生したんだ。  ふと気付くと俺の様子を少し離れたところから巨大なトカゲたちがじっとうかがっていた。  俺は、回りをすっかりトカゲたちに囲まれていた。  だけど、なぜか、みんな俺のことを離れて見ているだけで近付こうとはしない。  なんで?  俺は、体を起こすとみんなの方を見た。  「なんで、みんな、こっちこないの?」  俺がそう言うと、離れて俺のことをうかがっていたトカゲたちの中から一匹のトカゲが出てきて俺に近付いてきた。  それは、俺の母さんトカゲだ。  俺は、ゆっくりと近付いてくる母さんに声をかけた。  「大丈夫、俺は、無事だよ」  最初、目覚めたばかりの時のようにぼんやりとしていた俺の頭は、じょじょにはっきりとしていろんなことを思い出してきた。  俺は、昔、産まれる前、日本という国に住んでいた人間だった。  今では名前とかは、もう思い出すことはできないが、当時俺は、社畜と呼ばれる種族だった。  働いて、働いて。  毎日、毎日、仕事に追われて。  そして、疲れはてて死んだんだ。  その時、俺の頭の中になんだか懐かしいテレッテレーというような音楽が流れた。  『種族進化』  その声は、俺に告げた。  『竜人族に進化しました』  りゅうじん?  俺は、なんのことやらわからなくって頭を傾げた。  ふと自分の手を見て、俺は、驚いた。  「なんじゃ、こりゃあっ!!」  そこには、生っ白い小さな人の手があった。  これ、俺の手だよね?  俺は、小さな手をグッパグッパとして確かめた。  うん。  確かに俺の手だ。  なんで?  俺、トカゲだった筈なのに!  俺は、慌てて全身を見回した。  短い手足、ぽっこりとした幼児体型の人間の子供の体になってる!?  俺、人間になっちゃったの?  なんで?  後ろを見ると、かろうじてお尻に少し長めの立派な尻尾がはえているのがわかって、俺は、ほっと一息ついた。  これは、俺の尻尾だ。  俺は、このわりと長めの尻尾を抱き締めてみんなの方を見た。  「ぐぎぃ」  母さんトカゲが俺を見つめて声を漏らした。  だけど、今の俺には母さんが何を言っているのかわからない。    
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