42人が本棚に入れています
本棚に追加
慎が俺をぎゅっと抱きしめてくれる。
『お礼なら、俺の方こそ。俺を受け入れてくれてありがとう。好きだって言ってくれてありがとう。抱かれたいって思ってくれてありがとう』
「クス…あんなに俺を落とすって自信満々だったくせに?」
『あんなの強がりだよ?ホントはあんま自信なかった。和弥がモテてるの知ってたし、こないだまで彼女がいて、女の子が好きなのも知ってたから。けど、どうしても和弥が欲しくて必死だったんだ』
「うん…わかってる。俺を見つけてくれてありがとうな。ちゃんと責任とって最後まで面倒見ろよ?」
『もちろんです、誓います』
「じゃ、誓いのキスして」
ちゅ…また、止まらなくなるから…
「はい終了、コーヒー。腹へった」
『ふふ…了解』
俺たちは簡単な朝食…と言ってもトーストに数種のジャム。トマトのサラダにコーヒーとヨーグルト。
ゆっくりと幸せな朝を噛み締めながら、今日観に行く映画のリサーチをしてた。
【ピンポーン】
『ん?誰だろ?』
「出ろよ」
慎が部屋からインターフォンに出る。
俺も何となく覗く。
【はい】
【あの〜、B組の宮野です。実は玄関前まで来てます】
【はぁ?ちょっと待って】
「俺…隠れとくから話しろよ…昨日のラブレターの…件だろ?」
『はぁ…面倒だな、じゃ、寝室にいてくれるか?すぐ終わらせるから』
「うん…ごゆっくり…あんま傷つけんなよ?」
『わかってる』
パタン…
あ…そっか…防音完璧だから声も聞こえないし、様子を伺うこともできないのか。
しばらく、着替えたり慎の本棚をあせって時間を過ごしてたけど、あまりにも長いから心配になってそっと覗いた…のがいけなかった。
「は?」
慎と宮野がキスしてたんだ。
しかも慎が顔を赤くして…ソファで宮野を膝の上に乗せて…その状況で慎と目があった。
「悪い…邪魔した」
俺は自分の荷物を掴み、何も言わず、何も聞かずに慎の部屋を出た。
慎の声が聞こえたような気がしたけど、振り返る勇気がなかった。
宮野が可愛かったんだ。背中からでもわかる華奢な身体、慎に覆い被さってても違和感が無かった。
俺には出来ない、あんな風に可愛らしく膝に乗ったり…なんて…出来ない。
俺は自宅近くの公園で、ジュースを買ってベンチで反芻した。
今朝まではこれまでにないほど幸せだったのに、一気に突き落とされたな。
もう笑うしかない。
携帯のバイブレーションが止まらない、着信もメールも全部…慎だ。
俺は静かに電源を切った。
デートしたかったな、一緒に映画観たかったしカフェでお茶してさ…買い物して…
ポトリ…ポトリ…と涙が落ちる。
俺が恋愛事で泣くなんてな、笑っちまう。
夢だったんだ…そう思う事にした。
最初のコメントを投稿しよう!