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第7話 初勝利、からの砂金取り。楽し-、これ!
「ほんじゃ、ちょいちょいっと」
俺は目が見えなくなったウルフの首筋をナイフで切り裂いて回る。多少相手が動いていても、若返ったこの体の敵ではない! えっへん!
5分もすると、レッサー・ウルフたちは出血多量で動かなくなった。
「何か思ってたのと違う感じだけど、ヤッター初勝利だあ~!」
俺は右手を空に突き上げた。
『非の打ち所がない弱い者いじめですね』
「言い方!」
安全第一でしょ。勝てば良いのよ、勝てば。
「ところで、死体はどうしよう? 素材とか採れるのかな?」
『肉は臭くて食えません。革は汚いので商品価値ゼロ。討伐依頼なんてものはないので、報酬もありません』
「骨折り損かい!」
『身を守れたんですから、良しとしましょう』
そうなんだけどね。森で狼にあって無事に済んだら、上等なんだけどね。達成感が……。
『邪魔にならない程度に死体を脇に寄せて、さっさと先に進みましょう』
「事務的だな、オイ」
『お墓を作って手を合わせたところで、殺戮者の自己満足に過ぎませんから』
ごもっともです。やるかやられるかです、正味の話。
そうこうしているうちにアロー号の若返り治療が少し進み、人を乗せられるくらいの体力がついた。それではというので、毛布とロープを使って簡易的なサドルを載せてみた。
「ゆっくり歩くくらいならこれで行けそうじゃね?」
『ですね。馬に乗っていれば獣にも襲われにくいので、乗っていきましょう』
アロー号はアリスの制御下にあるので、俺ともツーカー。人馬一体なのだ。轡や手綱がなくとも言うことを聞く。
「おー。馬の上からだと目線が高いね」
『森の中ですから下枝に気をつけてください。油断していると顔面に食らいますよ』
そいつは気をつけておかないと。痛覚はそのままなので怪我をすれば痛い。
「そういえば、魔石とかもないんだね」
『胆石くらいしか採れませんね』
「要らないよ、獣の胆石なんか」
でもまあ、採取場に着く前に馬1頭ゲットできた。買ったらいくらするか分からないけど、1日分の稼ぎは超えてるんじゃない? もう儲けが出てるぜ。
「テイマーも良いなあ。年取った動物を安く買ってきて、若返らせて売るとかね」
『すぐバレるでしょうね。仕入先なんかすぐ調べがつきますから』
「じゃあ自分で使って商売するか? 運搬とか、畑を耕すとか」
『馬喰みたいな仕事ですね? 日本では護摩の灰と言ってましたが』
アリスの言い方だとイメージ悪いが、仕事としては悪くないぞ。人と触れ合うし、あちこち行けるし。候補には入れておこう。
アロー号に乗れたお陰か、思ったより早く砂金が採れる川筋にたどり着いた。
アローから降りて、川の流れに近づいてみた。中腹に近い高さまで登ってきたので、やや水流が速い。川筋は開けていて見通しが良いのだが、目の届く限りに人影はない。
「意外と人がいないね」
『この辺は採り尽くされていて、ゴールドハンター達はずっと上流の方に集まっています』
「なるほど。下流から枯れていく訳か。この流れなら上流から砂金が運ばれてきそうだけど」
『効率の問題ですね。ヒット確率が著しく下がってしまったんでしょう』
「そこで俺の出番となる訳だね。錬金術師トーメー」
『ツバキの錬金術師という二つ名を差し上げましょうか?』
要らねえよ、そんなあだ名。
「また、唾を吐くのか~」
『おしっこを撒いても良いですけど』
やだよ、こんなところで。つばで結構、ペッ、ペッ、ペッ。
『あとは寝ていてもナノマシンが勝手に採取合成してくれるんですが、せっかくですから砂金採り体験しましょう』
「ああ、道具も買っちゃったしね。ちょっと興味もある」
『それでは岩場に草が生えているような場所を探して下さい』
「岩場に草ね。ある程度広い所が良いのかな?」
『はい。岩盤が地表に出ているような所が最適です』
少し歩き回ることになるので、アリスがマップ表示を出してくれている。これなら迷子になる心配なし。
「この辺はどうだろう? 流れに突き出た感じで岩場があるけれど」
『良さそうです。ここで探してみましょう。草の根元に溜まっている土を掘り返して下さい』
理由を聞いてみると、増水時に岩場に堆積した土の中に砂金が残っている可能性があるらしい。
「岩場以外ではだめなの?」
『金は比重が大きいので、土だけの場所では雨が降るたびに地中深く沈んでしまうんです』
雨が多い日本ではすぐに土の中に埋もれてしまうらしい。
下が岩場だからつるはしを使った方が良さそう。日本で砂金採りを趣味にしている人たちは「カッチャ」という先の尖った鍬のような道具を使うらしい。麻袋一杯に土が採れた。
『掘った土をパンニング皿に少し入れて、川の水ですすぐようにして下さい』
テレビ番組で見たことあるぞ。皿をくるくる回して土を捨てるんだよね。
『土は良く潰して細かくしてからパンに適量入れて下さい』
篩も買ったんだよね。ふりふりふり……と。
「あれ? 何か金色の石があるね?」
『どれどれ、分析しましょう。あ、これは黄鉄鉱ですね』
「へえ。金じゃないんだ」
『違います。良くアホが金と間違えるので、愚者の黄金と呼ばれています』
「何か感じ悪いね」
水を入れてくるくる、くるくる――。うーん、無いなあ。
『1日掛けて見つからないこともあるそうです。気長にやりましょう』
簡単に見つかる訳無いか。地道にやりましょう。土を潰して、ふりふりふり……と。
「おや、また黄鉄鉱かな?」
『見てみましょう。えっ、これは――金ですね』
「へえー、当たりかあ。ラッキーだね」
『ラッキーだね、えへへ、じゃないですよ。この糞野郎』
「何で怒ってるの?」
『すべての天然はAIの敵です!』
そんなにか? 何か悪いことしたか? されたか?
『それ1個で10グラム以上ありますからね。日本円で10万円くらいの価値がありますよ』
「へえ~。いきなり当たりじゃん」
『そのへらへらした感じがいらっとしますね』
文句を言われてもねえ。たまたまですよ、たまたま。
「この調子で頑張ろう。ふりふりからの、しゃーぶしゃぶ……」
土砂を流していくと、粒つぶが残るね。小石か。こっちも石。
「あっ! これ金色じゃないか?」
『あ~、金ですね。はいはい』
「何でいやいやなんだよ。結構採れるじゃない。砂金採り楽しー!」
『付き合ってるのが面倒くさくなってきました。後はしばらく勝手にやってて下さい』
あ、そうですか。1人でも楽しいけどね。もう、今日1日分の稼ぎには足りてるから、後は気楽にやろう。ムキになって怪我してもつまらん。
はい、ザックザクのふーりふり。しゃーぶしゃぶのさーらさらっと。——はずれ。
ザックザクのふーりふり。しゃーぶしゃぶのさーらさらっと。——はずれ。
ザックザクのふーりふり。しゃーぶしゃぶのさーらさらっと。——金粒2つ。
……。
『トーメー、そろそろ切り上げましょう』
「うん? もう、そんな時間?」
『午後3時です。帰りを考えると今のうちに出発した方が良いですね』
集中していると、時の流れが早いなあ。砂金採り楽しいわ。
「いやあ、体が若いと夢中になれるね。腰が痛くなったりしないから」
『中身がジジイだと思うと、爽やかな台詞もむかつきますね』
ジジイに優しくしろよ。頑張ってここまで来たんだから。
「小さい粒つぶだけど、結構たくさん採れたから楽しかったな」
『欲に任せて随分集めましたね』
「へへ。見つかると面白くて、夢中になるね」
『ナノマシン組の方は、5グラム級の欠片を3個合成しました』
「おおー。10グラムの欠片と合わせると、25万円分くらいにはなるね」
上等上等。目立ち過ぎない範囲では、良い稼ぎじゃない。
「このペースで何日か稼げば、何をするにしても元手ができそうだ」
1週間くらいで次のステージに進めるかな?
『ところで、そのポケットの膨らみは何ですか?』
「ああ、これ? 恥ずかしいんだけど、記念に持って帰ろうかと思って」
『きれいな石ですか? 水晶とかアメジストなら売り物になりますよ』
「いやあ、これなんだけど。愚者の黄金」
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