僕のペットは人気者

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 僕は教室の斜め前方、席からちょうど見える位置にいる女子、高崎の絵を描いていた。この席から見える彼女の横顔はとても綺麗で、僕はその美しさを理解しようと思った。  決してその高崎が好きだからではない。僕の唯一の趣味、絵の練習として最適だと思ったのだ。僕は短くなった鉛筆をルーズリーフの紙の上で走らせる。  頬を流れる汗が線の上に落ちそうになり、僕は急いでその汗を拭った。夏は、太った僕にとって多くの意味で天敵と言えた。  絵の練習をするにあたって最も効果が得られるのは、なにかを模写することである。例えばそれは林檎や蜜柑などの果物。あれはよく観察すると微妙な凹凸があり、しっかりと模写をしようとすると相当に苦労した。  幸い僕は、模写の対象となるものの重要な箇所を抜き取り、それを紙の上に写し取るという作業が非常に得意だった。  そして退屈な授業に痺れを切らした僕は初めて学校での模写に挑戦していた。美しいものがどんな性質を持っているのか。それを認識し、実際に紙に落とし込むことができれば、僕はもっと絵が上手になれると思った。
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