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僕の絵が完成するちょうどそのくらいのタイミングで終業の鐘は鳴った。開いた窓からは蝉の鳴き声が聞こえ、生ぬるい風が僕の周りの熱気をほんの少しかき混ぜた。その風に乗ってルーズリーフが舞っていく。
空を滑り、落ちた後は床を滑った。僕ははじめ、あ、と思っただけだった。しかし描いてある絵のことを思い出し慌ててその紙を拾いに行った。
運が悪かった。ルーズリーフが最終的に辿り着いたのは、遠藤の足下だった。遠藤は、人気者だった。爽やかで、ユーモアがあって、見た目も良かったので大抵の人間は彼に好感を持つ。
彼は僕のルーズリーフを拾い、一瞬眉間に皺を寄せた後何かを言いながら隣に座る高崎にそれを見せる。
「えっ、何これ! ちょっと、嫌だー!」
彼女が遠藤の肩を叩きながら大きな声をあげると、彼が隣で仰け反って笑った。
「すげー、似てる似てる。 超似てるって」
「上手いけどキモいって。 誰が描いたの......?」
二人がルーズリーフの軌跡を目で遡る。そしてふたりは同時に僕にたどり着く。人ではなく、物質を見る時の目。僕の頭の中には醜く膨れ上がった自分の肉体の像が浮かび、途端に恥ずかしい気持ちが湧いた。だが今はそれどころではなかった。
何か言い訳を、と考える頭と裏腹に口からは一つの言葉だって出なかった。
恐る恐る二人の顔を見ると、高崎が唇を歪ませ、遠藤は悪戯っぽく僕を見ていた。
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