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「あ、佐山の......?」
高崎が妙にうわずった声で喋った。僕の脳みそでは処理が追いつかず、え、と聞き返す。
「あの、本当にこういうのやめて......。 普通に、キモい」
微妙に気を遣ったような、それでいて拒絶の空気を孕むその声は僕の心臓に刺さるように響いた。静かになった教室の至る所からこちらへの好奇の視線を感じた。
「あ、えっと、ごめんそういうつもりじゃなくてあの......」
余計な釈明をしようとしたところで、何やら机に向かっていた遠藤がぐっと高崎の方へと向き直る。
「じゃーん! 俺も描いた! 似てね? 似てるっしょ!」
彼はそう言って教科書を差し出す。その端のあたりには、幼稚園児が描いたようなデタラメな絵があった。
「もう! ちゃんと可愛く描いてよー! キモい!」
ふたりはまるで一瞬だけ映画の中から出てきたかのようだった。僕なんて初めから存在しなかった。そんな調子だった。その後の高崎と遠藤は、完全に別の世界の、接触不可能な世界の住人へと戻っていった。夏の光は、僕を避けて彼等だけのことを照らしていた。
僕は床に落とされたルーズリーフを拾った。のそのそと席に戻る僕は、巣に戻る芋虫の化物のようだったに違いない。いつの間にか、周りからの視線は感じなくなっていた。場違いで間抜けな乱入者から、また僕は無関係の、部外者になったということらしい。僕は戻った席で、できるだけ小さく、丸くなった。サナギになって、外の世界をただ眺めた。観察した。髪の毛の隙間をなぞるように汗が垂れ、頬を伝い、首を流れた。
僕自身も絵のように真似をしなければ。擬態しなければ。この小さな箱のような社会で生き延びるために。どうせ目指すのなら、そう、人気者だ。遠藤を覗くように見る。彼は大きなあくびをしていた。片目だけ開け、そちら側の口角を上げる。少しだけ大袈裟に。僕はその様子を簡単にスケッチした。家に帰って練習するために。
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