第5話 報道の自由

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第5話 報道の自由

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略) 「聞いてマナちゃん! 体育の野木先生が授業中に、運動部に入らない生徒は怠け者って言ったんだよ!!」 「それはちょっとよくないね。私は運動部員だけど、文化部で頑張ってる人が偉くないなんて思わないよ」  同じクラスの朝日(あさひ)千春(ちはる)さんは1年生にして新聞部のエース部員であり、いつも特ダネをつかんできては号外を発行して学内で配布している。 「先生の発言でも流石に許せないから、号外で報道するつもり。決して運動部と喧嘩するとかそういう訳じゃないから、心配しないでね」 「朝日さんも正義感でやってることだし、報道の自由は守られないとね。応援してるよ」  それから新聞部は朝日さんの原稿が載った号外を学内で配布し、最終的には野木先生が授業中に問題発言を陳謝する結果になった。 「高校生は運動部に青春を賭けるのが美しいとか言うけどよ、あんなの低学歴の言い訳だと俺は思うぜ。真面目に勉強してりゃ放課後何時間も球蹴りしてる暇ねえしな。おっと、これはオフレコで頼むな」  ある日の授業中、毒舌で有名な社会科の石原先生が問題発言をしたので、私はこの人も朝日さんから批判を受けるのだろうと思った。 「朝日さん、石原先生は普段から口が悪いけど、根は悪い人じゃないからあまり厳しい批判はしないであげてね」 「大丈夫、さっきの発言は記事にしないから!」 「はいっ!?」  授業終了後、朝日さんに対して石原先生の失言をフォローしようとした私に、彼女はけろりとした様子で答えた。 「あのねマナちゃん。文化部は普段から運動部を贔屓(ひいき)する人たちにいわれなき差別を受けてる訳だから、運動部に対して道徳的優位にあるの。だから運動部への差別発言はいちいち記事にするまでもないかなって」 「はあ……」  朝日さんはいわゆる報道しない自由を行使するつもりらしく、彼女はだんだん危うい領域に入ってきていると感じた。  その1か月後、私は教室の机に突っ伏してしくしくと泣いている朝日さんを見かけた。 「あれ、どうしたの朝日さん?」 「この前クラブの部長会議があったんだけど、新聞部の予算が多すぎるって言われて元の半分以下にまで減らされたの。言いがかりだって抗議したけど、うちの部長以外のほぼ全員が賛成したから、そのまま部費を減らされちゃって。私たち、何も悪いことしてないのに」 「あらら、お気の毒……」  声を上げて泣く朝日さんの姿を見て、私はこの人が反省する日は来るのだろうかと思った。  (続く)
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