16人が本棚に入れています
本棚に追加
序章 我愿意相信
「悪いことをしたら炎帝魔祖に呪われる」
幼いこどもはそう言い聞かされて、育つ。
一国をその身一つで絶望へ、地獄へと叩き落としたその魔の名を、人々は恐れる。
悪神
全ての悪事の根幹には彼が居り、人が死ねば炎帝魔祖の性、強盗が起きれば炎帝魔祖の性、流行病がはやれば炎帝魔祖の性。
人々にとって都合の悪いものは全て、炎帝魔祖の性にされた。
それほどまでに、彼の所業は残酷であったのか。
無慈悲であったのか。
悪神にふさわしき、人間であったのか。
そんな疑問を持つ者は、現れることはない。
言い伝えられていること、聞かされてきたこと、それが全てであり人々にとって真実など、無価値に等しい。
かつて皇子であった人間が、なぜ魔に墜ちたのか。
なぜ、己の家族を手にかけたのか。
彼は、何を想っていたのか。
それが明かされることは、これから先、永久に、ない。
呪いに呪われ、その身を焦がされた一人のちっぽけな人間のために。
真実は永遠に葬り去られていたままの方が、誰にとっても、都合が良い。
最初のコメントを投稿しよう!