金星の櫛

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 十五歳の僕は飛び級し特待生として世界最高峰の大学で天体物理学を研究していた。ギフテッドと呼ばれる僕には周りの学生が馬鹿に見えて仕方なかった。その生意気な態度と人種差別で悲惨なまでに虐められた。それでも学ぶことを辞めなかった。    月の背景の空間に裂け目の兆候と超大なエネルギー反応を発見し観測を続けた。それがミランコビッチ・サイクルの乱れに関係して大規模環境破壊の恐れがあると論文を書いた。  それは教授の名前で学会に発表され賞賛は彼のものになった。僕は激しく抗議した。名誉が欲しかった訳じゃない。奴を殴ったのは論文を正しく理解せず世界に警告しない愚かさに憤怒したからだ。  暴力行為で放校処分となり研究データは全て取り上げられた。    僕が復讐を決意した日曜の朝、兵士たちがやって来た。  銃と手製爆弾での大学襲撃殺戮をライブ配信したのは翌週の月曜日だ。僕は確かに決行して殺されたのを記憶している。  けれどこの宇宙船に連行されたのは事件の一週間前の日付けだ。それは今日だ。  僕は未だ実行していない未来を過去として鮮明に記憶している。もっと先の未来も朧げに記憶している。  僕が独りで月面に立っている思い出を。
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