金星の櫛

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 次元マトリョーシカの中では地球の自転の影響を受けないので認識的には数時間の感覚だったが現実では一週間が経過していて、目覚めたらブルーマンデーな問題の朝だった。  その夢の間はずっと箱の中に居て襲撃の準備などしていないし未だ宇宙船の中に居る。 「   さあ   、我々と人類を救ってくれ   」  巻き貝の中身のような小さな異星人は言う。僕はその理由を未来の記憶として知っている。  僕は彼らを「ムレックス」と呼んでいた。貝の中身のような軟体精神生物の彼らが3次元で活動するために着用している強化外殻パワードスーツが宇宙船デザインと全く同じ「ホネガイ」(骨貝/Murex pecten)金星の櫛(Venus comb)とも喩えられる見知った貝に似ていたからだ。  12の箱の訓練でどの次元をも認識する能力を得た僕はホネガイの願いを引き受けたのを記憶している。それは僕の思いと同じだ。  大学襲撃事件を起こしライブ配信し隠蔽された研究データを公表し最後は自害で命を賭してまで世界中に伝えたかった強い願いだ。  実際の事件は公表前に射殺される悔しい記憶で残っているが。 「さあ一緒に地球を救おう」  僕は全ての次元に遍在するムレックスと約束した。
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