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その2
ルゥを厩舎につないで、娼館を貸し切ったのか二階にある広々とした賓客の間に通された。大人三人が手を横にしてもまだ広さのある、どでかい寝台が中央に置かれている。
このあとの展開が読めてならない。
いや、まてまてまて。
なに脱いでいるんだ、こいつらは……。
「ち、ち、ちょっーと、まて。冷静になろう」
「俺は十分に落ち着いている」
「そうだよ、僕も落ち着いている」
全裸になっているふたり。来るんじゃない、と俺は手で制した。贅肉のないすらりと引き締まった肉体が眼前に輝いてみえる。
「あのな、ふたりは聖杯を探しているんだよな?」
「うん、そうだね」
「……そうだ」
この二人は王陛下より、あらゆるものを生み出すという聖杯探求を命じられている聖騎士だ。聖遺物であり、心の清いものしか手に入らないという聖杯を探している。
「つまり、性交の経験があってはならねぇっておっさん言ってたよな?」
「うん、そうだね」
「……そうだ」
そう、聖杯は童貞でなければ見つけられないのだ。
「大丈夫だ。貞潔は保つ」
「そうだよ。我慢できなかったら、どうにかするから」
どうにかってなんだ。
うさんくさすぎるぞ。
つうか、尻になにをしようとするんだ……。
「尻のレベルが上がると、聖杯が見つかるかもしれないんだ。どうか、命を救ったかわりに俺たちに協力をしてほしい」
「うっ」
「そうだよ。それにレベル上げしないと死んじゃうよ?」
俺は肩を落とし、どさりと腰をおろした。もちろん全裸の二人を前にしてでだ。
「……ケツがチートってなんだよ」
チクタクと針の音が耳を打った。
「ソータはこの世界の住人じゃないから特別なんだよ~」
「そうだ。なかなかないぞ」
いや、あってもこまるだろうが。
この世界にはなにかしらギフトを持って生まれるらしい。
たまに先天的に高い能力を持つ神童みたいなやつが現れるのだが、この世界の住人はそのギフトに合った職を得て生計を立てるようだ。
だが、ケツの才能に合った職なんて考えるだけでもこわい。
数日前に女神信仰のあるこの世界に異世界転移をしてきた俺。
名前は矢場野 奏太。
初めてエッチした彼女に「そうちゃん」と呼ばれながら、前戯が下手すぎて挿入もできずに振られ、友達からはヤバいヘタなヤバノとも呼ばれる童貞だ。
ヒサロに行って、こんがりと焼けた肌に黒のVネックに袖を通し、お気に入りのアクセサリー屋にいって怪しげな紋章が刻まれた指輪をはめたらこの世界にいた。そもそも、降り立った場所もひどかった。
黒い海のような樹海。鬱蒼たる暗い森でなんの装備もせずに、打ち捨てられ、灌木が地を這うように所々と群がり、野草の花の香りや木が腐ったにおいが匂い立つし、足元は露に濡れた草が絡みつき、得体の知れない鳥が頭上を舞っている。見渡す限り、森、森、もり。森しかなかった。
もちろん、かわいい白ギャルが来てないかなとその辺を探しもしたけど誰一人いなかった。やべぇ、俺、異世界転移しちゃったかも。なんて調子のったが、そんなものは三日で霧散する。
森を右往左往して迷い込み、腹は空腹をつねに訴え、巨大イノシシや野犬から逃げ、やっとの思いで生き延びた。必死である。
石を研いで尖らせ木の棒にくくりつけて腐った果実を拾う。真っ黒だった肌は元の地黒にかわり、ほどよく小麦色へと抜けていく。
そんな感じで過ごしていたらふたりとばったり出くわした。
わかっているのは、穏やか白魔導士はくそ。
黒騎士は無口でこわい。
それだけだ。
それから森を抜けて、村にやってきて……こうなってしまったわけで、どんなギフトがあるのか知らないなら、調べてもらおう……というのにこうなった。
ギルドマネージャーである竜人のおっさんのところを尋ね、アル中の酒臭い息でおっさんは俺たちを出迎えて奥にある部屋に通した。
部屋の真ん中にある机上に、透き通った水晶が置かれ、胸の鼓動を抑えながら俺は近寄る。
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