私の小指

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 完璧だ……  自分の右手を眺める。その一番端に、控えめに、たおやかに、白く細く、朝露に濡れる可憐な花のように光る小指を。利き手でありながらほとんど煩わしい雑用に参加することなく、高貴で孤高な月のように他の指の働きを眺め、ただどうしても必要な時だけその慈悲深いひと触れを賜る、小さな天使。  恥じらう乙女の色香をまとう慎ましやかな爪は、ぽつりと落ちた涙のよう。関節に寄る微かな皺すらも、伏せられた瞳のような情緒を湛えて胸を打つ。自分の身体にこのような部分が存在するのは驚き以外の何者でもない。まさに奇跡。  もちろん努力はした。これほどの逸品が黙って手に入ると思ったら大間違いだ。日々のケアを怠ったことはない。研究に研究を重ねた特殊配合の保湿クリーム。本来の美を損なわず爪を保護するネイルコート。どちらも現状最高と思えるものを使っているが、常に新たな情報に目を光らせ、少しでも良さそうなものがあれば金に糸目をつけず手に入れる。試すのは無論他の指だ。結果、恐ろしく高価な品を大量に廃棄したこともあった。肌に合わなかったからだ。もし右小指にあんなものを使っていたらと思うとゾッとする。長年追い求め、やっと手に入れた小指だ。わずかにだって損いたくはない。  毎夜のケアを終え、しばらくうっとりと眺めた後で、保護用の手袋をはめたその時、呼び鈴の音がした。  誰だろう、こんな時間に。  不審に思いながらドアホンのモニターを見る。そこには二人の警官の姿があった。 「昨日、世間を騒がせていた連続指切り魔の容疑者と見られる三十代の男性が傷害罪で逮捕されました。男性は、切り取った犠牲者の小指を自分の手に移植し、それが腐敗、もしくは損壊するたびに、新たな犠牲者を増やしていったとみられています。警察では、全ての犠牲者について証拠を固めるべく、男性の話を聞き、捜査を進める方針です」
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