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きっとフレッグが勉強すればあっという間に魔法を発動出来るのではないかと思う。それでも、彼は彼で、早く詠唱魔法のレベルを上げるためにそちらの勉強に専念しているのだから、タドルも自分なりにこうして夜な夜な机に齧り付いているのだ。
もう、魔法の使い方を教えてくれる人はいないのだから。
「タドルくん?」
フレッグが振り返ってくる。気づけば、タドルはいつの間にか立ち止まっていた。目があったフレッグは、そんなタドルを不思議にも思わずに、柔らかく肩を落とした。
「レイズくんがいれば、あっと言う間に教えてくれたと思いますよ。いつも、タドル君に根気よく教えてたんですから」
「……そっか」
安堵したように息をつく。それはどんなに記憶の蓋をこじあけたとて蘇らないレイズとの思い出。
「レイズ君も、今のタドル君を見ればびっくりしますよ」
「おい、それは余計だろ!」
いたずらに楽し気に笑うフレッグが、逃げるように寮への廊下を小走りで帰っていく。その空気に僅かながらも懐かしさを覚えながら、タドルもその後を追いかけた。
賑やかで事件だらけだった交換留学から数週間経ち、周りの生徒からも浮かれ気分が薄れてきている。相変わらず、魔法が使える日は気まぐれで、貴族の奴らは嫌味ったらしくて、暫く青空を見ていなくて。それでも一つだけ変わったことがあるとすれば、タドル自身だ。
「昨日、一昨日と来なかったけど、その様子からすれば調子は良さそうね」
「まあ、なんとか。フレッグが、結構気にしてくれるから」
ふふっと微笑むヒューネから顔をそらす。彼女とはあまり話したことはないが、やはりこう、大人の女性のいろんな魅力が溢れすぎて直視でなきない。だが、その顔を向けた位置もまた、ベストなものではなかった。
「予想よりも、早くコツを掴んだようだな」
今しがたのヒューネの柔らかい声音とは真逆のキレのあるしゃべり。不遇にもタドルはソファの隣の自席で書類を書いていたエリザと目が合ってしまったのだ。
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