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それを聞いて、タドルは苦い顔でソファに座り直した。自分の状態はあの日から何度となく聞かされてきたのだ。そのモヤとやらのせいで、見つかるはずのない記憶を手繰ることで頭痛に襲われていることも。
だが、永遠について回ると思っていたその頭痛も、今はだいぶ落ち着いてきた。その対処方針は予想以上に、簡単なものだった。
「だからこそ、君は一人で居てはならなかったんだ。一人でいれば、ますます幻影の沼にはまって抜け出せなくなる。君に必要だったのはかつての正しいリディームの姿を君に語ってくれる者だ。記憶が改竄されていようが心が覚えている感情と、その者が語る本来の姿を重ねることで君はリディームに会うことができる。君の事をよく理解してくれる、いい友達をもったな」
「ああ……本当、フレッグ“には”感謝してるよ」
そう自然なことを言ったはずなのに、向かいのソファに並んで座る二人は息を合わせたように意味深に微笑んだ。
「ハリスンだけではないだろ、遠くならないうちに、面と向かってよく礼を言ってきなさい」
「……はい」
口を尖らせて小声で応える。分かってる。悔しいけれど、その沼から抜け出す一歩を踏み出させたのはリーヴァスだったことくらい。今でも信じられないが、リーヴァスは不器用なりに確かにレイズを、そしてタドルのことも気にかけていた。そうでなければ、先日の闘技場で咄嗟にあんな顔はできやしないだろう。
「だが、これは対処療法でしかない。根本的な治療、君自身の本来の記憶を取り戻すには、別の方法が必要だ」
「なんだよ、その方法って」
「それを知るのは、今の君には早い」
「なんだよ、またそれかよ」
乱暴にソファの背もたれに背中を打ってみせるも、エリザは表情ひとつ変えることなく「そう焦るな」とだけ言ってくる。
「魔法が使えるようになればいいのかよ」
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