第33章 古式魔法

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   エリザに術式魔法のことを話していないのは、そんな怪しいものに手を出したことを怒られるかもしれないという恐れと、儚い望みを潰されてしまうかもしれないという不安があるせいだ。  術式魔法を否定されてしまえば、魔法を使うことも、大切な記憶を取り戻すことも、叶わなくなる。 「どうすれば、いいんだろうな」  ふと立ち止まり、窓の外を眺める。西向きの窓の外には遠い山並みに沈みゆく夕日が見える。 「はぁ……」 夕日を見れば、凄く懐かしい気持ちと悲しみが押し寄せてくる。だがそれは決して忌深いものではなく、痛痒いような感情。思い出したいはずなのに、分厚い靄で閉ざされた記憶が確かにそこにある。 「どこにいるんだよ、レイズ」 彼自身の居場所と、自分の心の中の彼の居場所。一番近くにいたはずなのに、今は誰よりも何よりも遠いところに行ってしまった。もう、思い出も記憶もない。ただあるのは抽象的な感情だけ。安心感だったり、寂寞感だったり。もう、レイズの顔一つ、思い出せないのに。 鼻を啜り、ぐっと奥歯を噛み締めて夕日色に滲んでゆく空を見上げた。その時、ふいに隣の棟の屋上に何かが映りこんだ。目を凝らして見れば、それは人影のようだった。 なぜだろうか。何の理由もないのに、タドルは歩みの方向を変えて走り出していた。 道順を考えなくても足が勝手に動く。なぜなら、あの屋上はよく行っていた場所だから。あの場所で過ごした時間は、レイズの記憶とともに蓋をされて引き出す事はできない。だが、共に過ごしたのはレイズと二人だけではなかった。 勘違いかもしれない。思い上がりかもしれない。こんな身勝手な幼なじみの事など、待っていてくれなくてもいいのに。  屋上の階段を駆け上がって扉を押し開ける。ぶわっと風が吹き込み、一瞬目を顰める。真っ先に差し込んできたのは、暖かい夕日の輝き。そして、屋根の中央に佇む少女の長い金色の髪。 「シェイ……ミー」 その声が届いたのか、シェイミーがこちらに振り向く。目線があった時、彼女は僅かに驚いたような顔をしたが、徐々に眉を下げ堪えるように目線を下げ、両の手のひらで顔を覆った。
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