第33章 古式魔法

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「シェイミー……!」 扉を押しのけ、段状の屋根を下って彼女の元へ駆けてゆく。 後悔の念と罪悪感が押し寄せる。それでももう、逃げ出すことは許されない。  背を丸めて肩を震わせるシェイミーの姿。こうなると分かっていたのに、自分の事ばかりを考えてシェイミーの気持ちをひとつでも考えたことがあったのか。 すすり泣く声が聞こえる距離まで近寄ったところで、タドルは歩みを止める。あと少しの距離を詰めることができない。触れたところで、こんな身勝手で問題ばかりを抱えた奴とまた笑い合う日を取り戻したいと彼女は願うだろうか。 それはきっと、彼女のためにはならない。 「……ごめん、シェイミー」 一歩、足を後ろに下げる。押しつぶされそうな痛みに耐えるべく、タドルは足元に視線を下げた。 レイズの過去も未来も背負うのは一人で十分だ。 「あとは全部、俺がなんとかする。だから……お前はもう俺たち二人のことは忘れーー」 何かに体が包まれる。そして視界いっぱいに金糸が舞う。 「バカ! 何言ってんのよバカ!」 シェイミーがタドルの肩口に顔を押し付けてそう叫ぶ。呆気に取られて状況が咄嗟に理解できなかったが、これは今、シェイミーに抱きつかれているということで、いいのか。 「は! え、ちょ……」 「ずっと、ずっと待ってたんだよ……ター君」 その懐かしい響きにタドルも胸打たれ、無言になる。そしてそのまま、ぎこちない手つきでシェイミーの背中にも手を回した。彼女と触れ合った肌が温かく、堪らず力を込めてシェイミーを抱きしめた。 「……ごめん」 濡れそぼった声を絞り出す。「お前のこと、気にしてやれなくて……」 「ううん……そんな、いいの。私だってター君に何も……何もして……」 タドルはそれ以上はいらないとばかりに力をこめる。  小さい頃、彼女は泣き虫で、タドルが少しでも強がったりするといつも泣き出しそうな顔をしていた。今の彼女はまさにあの時と同じだった。 いつだって、シェイミーはタドルや、レイズの為に泣いてくれていたのだ。 「ありがとう、本当にっ……」
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