第33章 古式魔法

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「あ、いつもすみません」 「何、好きでやってる事だ」  有難くロッドウェル特製コーヒーを口に含む。最初は主任に淹れてもらうなんてと言っていたものの、彼が好きでやっているのだから無下にするのは止めることにしている。 「それで、そんなしかめっ面して……って術式描いてるんじゃないのか」 「そうしたいのは山々ですが、設定が全て初期状態なので使っていた設定に直してるところなんです」 「あぁ……それ俺もやらないといけねえのか」  ズズズ……っとコーヒーを啜りロッドウェルも無言で画面に向き合った。この下っ端クラスに端末が再支給されたのは昨日の夜。喜びもつかの間、当たり前のことだが、起動してみたものの機能が全て白紙状態。もう天を仰ぐしか無かった。 「セノーリア、どこまで出来た」 「今ようやくデータベースにアクセス出来たところです」 「マジか。接続コード教えてくれ」 「これですけど、繋がるまで一時間かかりましたよ」 「いち……!」  ロッドウェルも白目を剥いて天井を仰いだ。こんな光景が今日1日何度となく繰り返されるわけだ。 「皆、作業を止め、前を向け!」  徒労な作業を妨害するがごとく、前方から幹部の声が飛んでくる。顰め面のまま管制室前方を見下ろせば、パルトロー次長がそこに陣取っていた。 「うわ、あと少しだったのに」 ロッドウェルが苦虫を潰したような顔でパルトローを睨みつけている。揃いも揃って酷い反応だ。 「先般の事故を受け、組織編成を行うこととなった。そのため、これより急遽、本日付の辞令を発令する」 「マジか……」 隣から聞こえてきた声には驚きの色よりも呆れが滲んでいるようだった。事故に遭って入院し、戻ってこれたと思ったら管制室やデータの復元作業。その矢先の異動だ。彼の気持ちも分からなくはない。だがそれよりも、ハルフィアの中では嫌な緊張が走っていた。いつかは来るだろうと覚悟はしていた。いつまでも、彼の不在を誤魔化し続けては先に進めないのだから。
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