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そう、多くの報道機関が長きにわたってその惨たらしい事件の全容を、まるで己も被害者だと言わんばかりに大げさに世間に発信する様に、エリザはとっくの昔に嫌気がさしていた。
無関係の癖にこちら側に便乗しようとしている態度にか、それとも非日常感を楽しんでいる下心にか。いや、そんな短絡的な理由ではない。もっと、根本的なところで行き詰っているような気がしてならない。
「あまりにも惨たらしい事件であった。だが事件後の生徒の心をケアするため君達はよく頑張ってくれたと、私は感謝したい」
考え込む頭の隙間に入り込んだ何ともあっけない感謝の言葉に、この怒涛に過ぎ去った数か月間の激動がフラッシュバックしてくる。
事件後、授業は全て休校となり、そして学園自体が立ち入り禁止になった。建物単位ではなく、敷地そのものがだ。
そしてあの事件を目の前で目撃した全ての生徒は余すことなく心的外傷後ストレス障害に陥っていた。そのため全生徒を同系列の大学病院へ入院させ症状を緩和あるいは消滅させるために“心的治癒魔法”を受けさせた。
それは干渉魔法であり、特に魔力値の低い一学年への治療は困難を極めた。一度に大容量の干渉魔法を受けさせることはできないため、治癒魔法を細分工程化し、長い期間治療に当てさせた。その心的治癒魔法に一番長く時間がかかってしまった者で三か月――あの事件を引き起こした生徒の、一番の親友がそうだった。
どうかしている。亡くなった生徒を悼むより、一心同体だったあの二人の少年たちを推し量っているのだから。
「長らく学園は休校となり、私はもう再開は不可能であるとすら考えていた。だが奇跡が起こり、我々はここへ導かれた。事件から一か月後におこった『ファースト・サルベイション』である。世界殲滅千年大戦から六百年。我々はようやく今、救済への第一歩を踏み出したのだ!」
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