108人が本棚に入れています
本棚に追加
ワッと拍手が沸き起こる。それはまず反対側の教師から打ちあがり、そして倣うようにこちらの教師も手を打ち鳴らし始めた。
暴動事件の話題の時は憤怒に顔を赤くしたり、葬儀中かと疑うほど神妙にしていたノービスの教師が、ひとたび『ファースト・サルベイション』の言葉が出た途端、態度がこうだ。
どうかしているのは、彼らも同じだった。
学園長は嬉々として『ファースト・サルベイション』の偉大さを滔々と語っている。目の前の教師らも目を輝かせているものだからエリザはうんざりしてくる。
なぜそう無邪気に希望を持てるのだろう。エリザ自身、あの暴動事件が発生するより前だったなら彼らまで行かなくとも、いくらかは喜べたのかもしれない。
――殲滅神が再び現れた時、セイバー神が必ずしや闇を打倒し世界を救済する。
その予定調和はエリザの中で揺らいできていた。他の子と何一つ変わらず喜怒哀楽を見せていた彼が、暗黒の使者『ジェノス』であったこと。そして『ファースト・サルベイション』が起こった日に見上げた、赤黒く染まった空。それ以来支障が出始めた魔法の発動。
何もかも納得できない。
「学園長、ありがとうございました」
変わった声音に意識を戻すと、学園長がゆっくりと座席についているところだった。
「次に新学期にあたっての留意事項について副学園長よりご説明がございます」
滅多に生徒の前には出ず、教職員の指導が主な業務になっている副長はこういう会議では主導役になっている。学園長とは打って変わって細身のローブを纏っている長い白髪をぴっちりまとめた熟年の女性が、ファイルを手に立ち上がる。
「皆さん、事前に配布した資料はお持ちいただいておりますね?」
冗長な説明や応答を嫌う性格の彼女は、はきはきした口調で進めていく。
最初のコメントを投稿しよう!