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 ソフィアは孤児だった。  ジプシーの一団が森の中で野営しているのを発見された翌朝、教会の前に捨てられていた赤児がソフィアだった。  美しく育ったソフィアを男たちの誰もが欲望の眼差しで見つめたが、彼女の結婚は遅れた。ジプシーかもしれない女を嫁にするなど体裁が悪い。そういう理由だった。  十八歳、売れ残りなどと言われ始めた彼女を娶ったのは、村で一番貧しい男、ヨハンだった。肺を病んでいて、人並みに働くことのできない男だったが、まじめで優しい男だった。  二週間に一度、ソフィアがウラニアのもとを訪れるようになったのは、この男のためだ。  グリューネヴァルドの森には魔女がいて、頼めばどんな薬でも調合してくれる。魔女は恐ろしい存在ではなく、会うことさえできれば、優しく親切にしてくれる。  女たちの間では密かにそう言い伝えられていて、ソフィアはそれを信じたのだった。   そうして、ウラニアとソフィアの密やかな交流がはじまった。  年齢も近く、同じように孤独だった二人の女は、親密な関係を築いた。  秘密の、しかし穏やかで無害な交流が、ずっと続くものとソフィアは思っていた。  魔女狩人を名乗る修道士、クリストフが村に現れるまでは。            
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