一章 邂逅

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           (1) 磐長姫(イワナガヒメ)が山の国の女王の位に就いてからしばらくして、不思議な夢を見るようになった。見知らぬ少女が登場する夢だった。少女は身分があると見えて、変わった形に髪を結い、整った身なりをしていた。少女は物思いに耽っていることが多く、いつも形の良い眉をひそめていた。 ある日の夢で、少女は芥子の花畑の中に佇んでいた。今日はどのような表情でいるのかと興味本位で顔を覗き込むと、なぜかこの時は目が合ってしまった。 こちらの姿が見えないと思っていたのに、少女ははっきりとこちらを見ている。 (私は夢を見ているはずだが…どうしたことか) 「あなたはどこからいらしたのですか」 少女が良く響く、低い声で問いかけてきた。 「夢の中に何度も現れて、私を憐れむような目で見ているのはなぜですか?」 イワナガは腹を括って、少女の方に一歩踏み出した。少女は一瞬身を硬くしたが、すぐに警戒を解いた。この世の中に自分に害を及ぼすような存在はいないと信じているのだろう。 凝った刺繍の飾り帯や、極々薄いひれの質感が、彼女の身分の高さを物語っていた。年若いが落ち着いていて、質問の鋭さに命令をし慣れている風格が感じられる。
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