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イワナガは優雅に腰を折って礼をした。
「大変失礼を致しました」
その物腰を見て、少女は自分と同じ雰囲気を感じ取ったのだろう。目が一瞬にして穏やかになった。
「憐れむなどということはございません。姫さまのお顔を見ようとこういう顔つきになっただけです。私は右目が良く見えないので」
イワナガは自分の右目をそっと指差した。イワナガの右目は黒目が菫色がかっている。白目も血が通っていないように純白だった。それを見て少女はハッとしたようだった。申し訳なさそうに目を伏せる。
「すまない。知らぬとはいえ、無礼であった」
イワナガは静かに首を振った。
「憐れむとおっしゃいましたが…」
イワナガは年若い姫を見やりながら、
(不思議なものだ。夢の中でこんなにしっかりと会話をしているとは)
心のうちでおかしくなっていた。と同時に、生来好奇心が強い性質なので、俄然少女に興味が湧いて来た。
「姫さまがどなたかを憐れんでいらっしゃるお気持ちが、私の顔に映ったのでは?」
イワナガの言葉は思いがけないものであったようだった。少女は黒目勝ちな大きな目を見開いた。
「私が、憐れんでいる?なるほど、そうかもしれぬ」
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