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「ゾウリムシになりたいな……」
「分かるぞ?気持ちは分かるけどさ、世の中たくさん辛いことあるんだからいちいち気に病んでてもしょうがない」
仕事をクビになった翌日の昼、ベッドに寝そべりながら呟いた陸人は首だけを動かした。
安アパートのこの部屋に住んでいるのは本来陸人だけのはずなのに、さも当たり前と言わんばかりに見知らぬ女児がテーブルに置いてあるコップに入ったお茶を飲んでいる。
陸人は目をパチパチ動かして、自分が夢の中にいないことを確認した。
「……誰だ君?」
「座敷童さ」
「……名前と住所、あと親御さんの電話番号を言いなさい」
「は?」
「まったくどこから入ってきたんだ?君ね、今のご時世危ない大人がたくさんいるんだから知らない人の家に入ったりしたらダメだぞ?」
「ああ、信じてないわけね」
「いいから名前を言いなさい」
「名前はない、親もいない、住所はここ、お前が住むずっと前からここにいる」
「図書室で『学校の怖い話』の本でも読んだの?そんな着物まで着て……お母さんに怒られるよ?」
座敷童は赤い立派な着物を揺らし、ゆっくり立ち上がった。
そして鼻を鳴らし、足を床から離す。
完全に宙に浮いた女児を見て、陸人はまたパチパチと瞼を上下させる。
「どうだ、学校の怖い話を読んでも空は飛べまい」
「えぇ……どういうトリックなんだ?」
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