君と大人になる僕を

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いよいよやってきてしまったこの日— 卒業式 クラスの女子はおろか、男子も号泣するほど暖かい担任のあいさつ。 別れを惜しむようにシャッターを切るクラスメイト。 その中で、俺はみいちゃんを見つめていた。 目に焼き付けていた。 そのせいで、俺は見てしまった。 中庭の隅の校舎の影、人影が見えた。 —みいちゃん 見間違えるはずがない。その背中を追った。 『みいちゃん』と声をかけようとして、その陰にもう一人の人影。 これも間違わない、かいだ。 いけないとわかりつつも、静かに近づく。 「はい、みいちゃんのボタン」 どうやらかいがみいちゃんに自分の制服のボタンを渡しているみたいだ。 「ありがとう」 ふんわりと甘いみいちゃんの声。 「みいちゃんの大学近くてよかった。」 「うん」 「みいちゃんにお弁当作ってもらえるもんね」 「えぇ それが目的?」みいちゃんの楽しそうなため息が聞こえる。 「みいちゃんのものなら俺、みんなほしい」 かいの言葉はとってもつややかで、何となく卑猥に感じてしまう。 「かい…」 出来心で、少し覗いてしまう。 そしてそのことを後悔する。 壁際に寄りかかるみいちゃんと、それにかぶさるようなかい。 みいちゃんのあごをかいが片手で支えて二人が重なる。 二人が離れたそのあとに、見えたみいちゃんの表情から、目が離せなくなる。 その顔はきっと、今の俺の前では…いや、かい以外の人は見ることができないはずのもの…。 「みいちゃん、大好き」そのかいの声に、我に返って、急いで中庭を後にする。 体育館の前で、まだ盛り上がっているみんなに引き込まれる。 「かけるどこ行ってたんだよ」 「写真撮ろうぜ、担任とみんなで」 口々に言っている。 「やまちゃんは?」 そういった子がいた。 そのいいタイミングで、中庭のほうからみいちゃんが走ってくるのが見えた。 「やまちゃんクラスで写真撮るよ」 早く早く、とみんなにせかされて、みいちゃんは慌ててみんなの列に入る。 いつも、指定席のように、隣にいたみいちゃんが、今日は、…今日からはもう、隣じゃない…。 でもそれが今はありがたい。 そのみいちゃんの顔を…その唇を、俺はどんな顔でも見ることなんかできない。 あっという間にシャッターは切られ、解散していく。 「かける、あとで部活の写真も撮ろ」 ふいに肩越しに掛けられた声にびくっとする。 反射的に振り返った俺のの視界に、ドアップでみいちゃんが入ってくる。 「…」何も言えない俺。 「かける?」みいちゃんの唇を見つめてしまう。 この瞬間、みいちゃんの瞳には俺しか映っていない。 まるでコマ送りのように果てしない時間と、春の柔らかい日差しにつややかに見えるみいちゃんの唇。 あぁ、今この距離なら、抱きしめてしまえば、みいちゃんはもしかしたらまだ俺のものになるかもしれない。 冷静に考えたら、あほみたいな気持ちがわいてくる。 「やまちゃんせんぱーい、平山先輩写真とりましょ?」 ギリギリのところで、部活の後輩が絶妙に声をかけてくれる。 一瞬にして、時間が動き出す。 よかった、もし欲望を衝動に任せていたら、きっとみいちゃんは困っていただろうし、俺たちは友達にも戻れなくなっていたはず。 「行こ?かける」 みいちゃんの手が差し出される。 「うん」俺はそういって3年間たくさんの思い出を作った『親友』の手を握った。 そんな俺に、みいちゃんは俺にほほ笑んだ。 そして、それが、走り出した俺たちを切る風と一緒に、俺の恋が終わりを告げて、 校舎のほうへと流れ去った瞬間だった。 みいちゃんを好きな気持ちは変わらない。だからこそ、そんな大切な人の幸せを大切にしたいと思い始めることができる。 そうして、俺は— 俺たちは一歩ずつ、大人になっていく。                      終わり
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