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あの日、かいは帰り際に一言言った。
「でも答えはみいちゃんの気持ちの中にしかないから。
俺、本気出すよ。」
かいの本気は俺には恐怖だった。
だって俺は知っている。
みいちゃんが、男としてみているのは、俺じゃなくてかいだってこと。
かいの瞳を独占することになったら、俺が大切に保ってきたみいちゃんとの距離は、あっという間に吹っ飛ばされて離れてしまうのは明白だ。
かいは残酷だ。
そのふかーい溝をのぞかせながら、俺と友達でいることものぞんでいる。
でも、それより理解できないのは俺の気持ちだ。
例え二人が付き合ったとしても、二人との関係を続けていたいと思うのだから。
「やまちゃん行くよぉ」
「あ うん」
夏休みのある日、息抜きにカラオケに行くことになった。
受付を終わって部屋に移動する。
私服のかいは、女子にもてる。
かいの周りには女子が集まる。
「かける飲み物入れた?」
ドリンクバーの前で、みいちゃんがカルピスをコップに入れている。
「俺も、カルピス」
みいちゃんの後にコップを差し込む。
みいちゃんを包み込むように立つ。
ねぇ ドキドキする?かいにするみたいに顔が熱くなる?
そんなくだらないことを考えてしまう。
「かけるのスニーカーいいね」
俺の気持ちとは裏腹に、足元を見たみいちゃんが声をあげる。
「あ これ?レディースサイズもあったよ」
平静を装って、さりげなくお揃いを勧める。
「紺もあった?」何となくいい反応にときめいてしまう。
「紺と白と水色あったよ」
そういうとちょっと悩んでいるようだった。
「みいちゃん 部屋はいるよ」
その雰囲気を壊すように、かいの声が飛んでくる。
「あ うん。 行こ、かける」
みいちゃんは、かいに答えた後俺に振り返る。
「うん」俺はそういってみいちゃんの頭をポンとする。
不意打ちに驚いたのか、みいちゃんが俺を見上げる。
俺たちの視線が合わさった刹那。
「みいちゃん早く」
とあまえたかいの声が、俺たちの間の空気に割って入る。
これが、かいの本気か…。
カラオケは盛り上がる。
何度か席が移動しているうちに、かいがみいちゃんの隣に座った。
相変わらずのあまえっぷりだが、いつものことなので、誰も気にしない。
かいが何か、みいちゃんに耳打ちしている。
少しお驚いた顔をした後、みいちゃんはかいを軽くたたいて笑った。
「ほんとだよ」と言って愛おしそうにみいちゃんを見つめるかいを見てしまう。
何を話したんだろう。
気になって、カラオケに集中できない。
かいは、ちらっと俺を見た。
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