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卒業もまじかの登校日。
俺は、不思議と…、いや必死にかいとみいちゃんの友達を続けている。
二人も、今までとさほど変わらない関係を続けていて、核心的なことは、俺も聞けないでいる。もちろん、かいもみいちゃんの何も言ってこない。
ねぇ、二人は付き合っているの?
もともと甘えていたかいが、みいちゃんにまとわりついてるのは、日常的な雰囲気でしかなく、誰もその話題にふれたりしなかった。
でも、みんな思っていただろう。
『かいが告白を受けていない』ということ—。
全員登校だから、久しぶりに会うやつもいて、教室は騒がしい。
「かける」その雑踏の中でも、この声を俺は的確に聞き分ける。
「みいちゃん、どうしたの?」
「あの、サイン帳、かけるも書いてくれる?」
みいちゃんの胸には、いろんな人に書いてもらっただろうのノートが、抱えられている。
みいちゃんの好きなキャラクターのノートの真新しいページを開く。
「いっぱい書いてもらってるね。」
「うん。私意外と友達多かったみたい」と自虐して笑うみいちゃん。
でも、ちょっと真面目な顔をして、
「それはたぶん、翔が最初に私に声をかけてくれたおかげだよ。」
と言った。
「ありがとう。」
そういったみいちゃんの笑顔は、3年前に見た、俺が一目ぼれしたあの笑顔のままだった。
「…あ」その光景に、俺たち二人の流れた空気感に、今までのことが、一瞬にして、俺たちの間を通り過ぎた。
「… かいと?」
言葉を忘れてしまった、いや行きすら忘れていたかもしれない俺に、みいちゃんが遠慮がちに声をかける。
俺の名を呼ぶみいちゃんの声で、一気に現在に引き戻された。
「あ え?いやいや、みいちゃんの性格のせいだよきっと…」曖昧に笑って絞り出した言葉に、みいちゃんがちょっと小首をかしげる。
そのしぐさを見てハッとして、しまった!と思う。
いつもの俺なら、『でしょ?やっぱ俺って人望あるからさぁ』
とかいうところだ。
こんなにも自然に、みいちゃんに優しくできてしまった俺に、激しく後悔が押し寄せる。
初めからこうしてたらよかった—。そう思って自嘲してしまう。
まだ不思議そうな顔をしているみいちゃんに、
「なぁんて、やっぱ俺、自然と人集めちゃうんだよね。」
そういって、みいちゃんの頭をポンポンする。
もうこれも、かいに停められちゃうかもな…。
感傷に浸ってる俺とは裏腹に、みいちゃんは、いつもの俺に安心したように笑った。
「やまちゃんちょっといい!」廊下で、みいちゃんの友達が呼んでいる。
「うん」ちらっとそっちを見た後、俺のほうを向き直って、
「あとでとりに来るから、書いといてね。」とみいちゃんは走り去った。
残された俺は、表紙に書かれた、みいちゃんの名前を人差し指でなぞる。
—Y,mii—
俺の大切な人の名前だ。
ただのローマ字の羅列なのに、こんなにも俺の胸を熱くさせる。
このノートには、彼女の3年間の思い出が『友達』と『青春』という形で刻まれている。
パラパラとめくって、真新しいページに戻る。
みいちゃんとの3年間の締めくくりに、いったい俺は何を書けばいいんだろう。
にぎやかな、クラスを見まわして、考える。みいちゃんに一番伝えたいこと…。そして、俺が罫線を無視して、そのページに大きく書いた言葉は、
『平山 翔』
みいちゃんに一番忘れてほしくない言葉…。
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