君と大人になる僕を

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「かけるぅー 終わったぁ?」 生徒会室の扉を勢いよくあける多野(たの) (かい) 「かい ノック」かいの質問には答えずに、注意をすると 「…ごめん」とわかりやすく耳と尻尾が下がるかい。ほんと‘大型犬’とあだ名を付けられるのは当然だ、と思わせるかわいさ。 男の俺でさえ庇護欲をかきたてられる。 「ふふ、かい部活終わったの?お疲れさま」 そんな俺たちのやり取りをおかしそうに眺めて、矢間名(やまな) みい。 「あっみいちゃんだ」 かいは、もう全部の質問を忘れてみいちゃんに会えたことを喜んでいる。 みいちゃんも駆け寄ってきたかいを『よしよし』と可愛がっている。 周りにいたみんなも、この学校では日常と化したこの光景を暖かく、見守っている。 ただ、俺は仲睦まじい二人を素直に見れなくて、少しだけ黒くなる感情にふたをする…。 俺は平尾(ひらお) (かける)。 ここ、堂島高校の3年生だ。 部活は読書部というちょっと独特なのに入っているけど、いろんな部活の助っ人として、割と活躍している。 読書部に入ったのには、理由がある。 みいちゃんだ。 彼女は高校一年の時同じクラスだった。 入学式の後たまたま先生の目に留まった俺とみいちゃんは、職員室から初めての配布物を運ぶのを手伝わされた。 みいちゃんはきっと目立つタイプでもないし、かといって地味すぎるタイプでもない。ほんとに普通の女の子だった。 でも、廊下を一緒に歩くみいちゃんの揺れるスカートのすそと低めのポニーテールになんだかドキドキした。 言っとくけど、俺に変な趣味はない。でもふっと香るシャンプーのにおいに、 思わず目を細めてしまった。 「あのぉ…」気づくとみいちゃんは立ち止まっていた。教室の前まできていたのだ。 「あ…はいっ!」声が上ずってしまう。やましいことは何もないのに、なんだか罪悪感。 「あの、ドア開けられなくて…」 あぁ両手ふさがってるしね。そう思って、 「俺の資料の上に君のやつ重ねていいよ」 そういうと小さく『ありがとう』と言って、重ねられる紙の束。 そんなに量はないけど、ちょっと重くなる。 そしてみいちゃんが教室のドアを開けた瞬間— …サァー 誰かが開けていた窓から、春風がドアを通り抜け、俺の両手に抱えられた髪の束が、結構舞い上がった。 「「…っあ!」」二人同時に声をあげた。 教室の中からは、『あーあ』とか声が聞こえる。 俺はとりあえず教壇に残っている配布物を置いた。 慌てて拾い集めているみいちゃんとほかの生徒何人かに混ざって、俺も、 髪を拾い始める。 「ごめんごめん」と慌てて謝るとみいちゃんも 「私こそ」と言った後二人の目が合った。 そこでニコっと笑ったみいちゃんに、—俺は堕ちた。
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