君と大人になる僕を

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「うん…平気」 俺は何とかいつものように笑って、みいちゃんの頭を『ぽんぽん』とする。 みいちゃんは安心したように笑う。 ねぇみいちゃん、これってカレカノの感じなんだよ。 特別…。俺にとってはみいちゃんはかなりトクベツな存在なのに…。 こんなに俺の腕の中にいるのに、抱きしめて閉じ込めて…。それすらできない。友達の距離なんかもう、俺の中ではとっくに超えてるのに…。 電車が止まる。 「またLineするね」 そういって俺はホームに降り立つ。 「うん またね」 扉の締まった電車は、笑顔で手を振るみいちゃんを次の次の駅まで運んでいくのだろう。 1人の時間にみいちゃんは、何を考えて過ごすんだろう。 答えの出ない問いを、自分の中で消し去りながら、駅を出る。 花火大会— 快晴だ。 「花火日和だね」 女子の何人かは浴衣を着ていた。 みいちゃんは動きやすい格好で、スニーカーを履いていた。 「そのスニーカーかわいいね」 「そう?この前みんなには派手過ぎって言われた。」 「確かに蛍光色とかみいちゃんには珍しいかも」 「でもこれなら迷子にならないでしょ?」 ふふっと笑う。 「確かに、でも心配なら俺手ぇつないどいてやるから」 ちょっとしたチャンスにも食いついてしまう。自分が必死すぎて笑える。 「いや、まじで迷子とかならないから!」 ちょっとむくれてから笑うみいちゃん。 「いや、まじでみいちゃん心配だから」 俺もいたずらっぽく言って笑って返した。 「みいちゃん!」 そのタイミングで、少し離れたところからかいの声がした。 心の中で舌打ちをしてしまう。 ていうか、なんで俺じゃなくてみいちゃんを呼ぶ? 「かいくん」 みんながそれぞれかいに気づいて、かいが合流する。 「よかったぁ みいちゃんが目立つ靴はいててくれて」 あぁこの靴ね。 「結構人込みでさ、みんな探してたら、派手なくつの人いるなぁって思ったら、みいちゃんだった」屈託なく笑うかい。嫉妬した自分が恥ずかしい。 「やっぱこの靴正解だった。」そう言って得意げにみんなにスニーカーを見せるみいちゃん。みんなに笑いが起きる。 「あっちでよくみられるところあるから、なんか食いもんかって行こうぜ」 誰かの一言でみんなで移動する。 屋台を眺めながら、花火が見えるスポットに行く。 俺は簡単に食べられるアメリカンドックと肉巻き串を買った。 みいちゃんは、ケパブという渋いチョイスだった。 「やまちゃんがっつりだなぁ」綿あめを持った友達に茶化されている。 「おなかすいちゃって、綿あめも食べたいけど…やっぱ背に腹は代えられない」と言って舌を出している。 「私の一口あげるよ」 「じゃ ケパブもどうぞ」 女同士はいい。簡単に交換こできる。 鼻に綿あめを付けられて、むずがっているみいちゃんを見つめてしまう。 「かけるも綿あめ食べたいの?」 かいが突然声かけてくる。 「ち ちげーよ」 「え、じゃケパブ?」 俺たちに気づいたみいちゃんが聞いてきた。 みいちゃんが食べたケパブを見つめてしまう。 「あ でもそんなことしたら、間接チューになっちゃうね」 かいが耳元でささやいてくる。 ハッとした顔をしたら、それが聞こえていなかったであろうみいちゃんが、 「ん?ほんとに食べたいの?」 世話焼きのみいちゃんは、よこしまなことは考えもしないのだろう。 口元を拭きながら、たずねてくる。 そして、にっこり笑うと 「はい」と言って、肉の塊を一口取り出して、俺の口元に差し出した。 唖然としてしまっている俺に 「ほら、あーん」 言われるままに口を開けると、みいちゃんがポイっと肉を俺の口にほおりこむ。素直に咀嚼してしまう。 「おいし?」そう聞かれてこくりとうなずく。 よかった、と笑うみいちゃん。 こういうのって、いつもはかいの役じゃね?
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