長橋の長い夜

依頼

「今日の依頼はコメディ短編２本ね。」

　担当者からの電話に、長橋(ながはし)は戸惑った。

「あの、僕、コメディって書いたことないんですけど。履歴書の得意ジャンル欄にも『コメディ』だけは書かなかったし。」

「毎日毎日いろんなもん書いてんだから、そろそろ書けるでしょ。」
「いや、その言い方はコメディ作家さんに失礼かと思います。」
「あんたのためにハードル下げた言い方してんのに、なにその返事。恩を仇で返したね？」
「あ、すみません。そんなつもりはなかったです。」
「はい、こっちの優しさがわかったなら、書いてね。明日まででいいから。」
「あ、明日？！」
「そうですよ。ラインに秒で返事しないと相手がキレる時代に、一晩も待ってあげるんだから、心広いでしょ。んじゃ、お願いしまーす。」

　営業用ボイスで締めて、電話は切れた。