ごめん、主人公俺だから

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男子校・全寮制・美形生徒会。 この3拍子が揃うと起きる怪奇現象は何か。 そう、“王道”物語だ。 全寮制の男子校を牛耳るのは生徒会。 しかも美形ときた。 人気者を集めたような生徒会は全校生徒からの憧れの的。 ファンクラブー別名、親衛隊なるものが結成され生徒会の勢いは止まることを知らない。 そんな生徒会の影響力は計り知れない。 絶対不可侵という暗黙ルールの元に、生徒会と一般生徒の間には超えられない壁があった。 それを壊したのが新学期始まってまもなくにやってきた転入生だ。 そう、転入生というのが王道物語のキーパーソンだ。 人生において全てが順風満帆に進んでいた転入生にとって、自分は愛されて当然だと思うのは当たり前なんだろう。 転入初日に校門まで迎えに来た副会長を落とし(恋愛的な意味で)、クラスでの挨拶で「みんな俺の友達な!」と宣言し、クラスで高嶺の花である爽やかボーイと一匹狼を落とし(恋愛的な意味で)、カフェテリアで生徒会メンツを落とし(恋愛的な意味で)。 側からみるとただのイケメンほいほいマシーンにも見える転入生は、いつのまにか生徒会メンツと仲を深め、誰も超えられなかった壁をぶっ壊して来た。 生徒会にとってはそれが新鮮だったのだろう。 生徒会は転入生に四六時中べったりとくっつき、生徒会室にまで招き入れ、一日中ティーパーティー状態。 その間に流れてくる仕事をほったらかし、仕事の心配をしてくれた親衛隊を蔑ろにする。 「お前らがいるせいで皆(つまり生徒会)が迷惑してんだよ!」と親衛隊を嫌悪する転入生VS過激派親衛隊の構図に、風紀委員は連日大忙しだ。 たった数日で荒れに荒れた学園を纏めるのは誰か。 誰もいない。 こんな王道すぎる物語に頭を抱えたのは誰か。 それはこの学園のトップ、生徒会長だ。 生徒会長は至極真面目な人間だった。 生徒会長は中途半端な時期にこの学園にやってきた転入生の身元を疑った。 この学園は金持ちの巣窟。そして偏差値も高い。いくら頭の良い一般人でも、入学金の高さに断念する程だ。特待生という選択肢もあるが、編入という名目で使われることはまず無い。 じゃあ何故編入することが出来たのか。 それは親戚関係である教師がこの学園に勤めており、今回転入生の試験を担当していた。その教師は試験の回答を改竄したんだ。 答案用紙は教師や生徒会役員であれば誰でも入れる資料室に保管されている。 確認したところ、明らかに書き直されていたし字体も転入生本人のものとは異なっていた。 転入生本人が回答したもので採点をするとこの学園に入れるほどの頭脳は持ち合わせていない事が分かった。 教師が独断で行ったかもしれないし転入生の親が絡んでいるかもしれない。もしかしたら転入生自身が頼み込んで協力してもらったかもしれない。様々な憶測が浮かぶが編入してしまったところでもうどうにもならない。 生徒会長にとって、転入生がコネで入ったことなどどうでも良かった。 ただ生徒会メンツが転入生に骨抜きになっていることには眉を寄せていた。 人それぞれ好みがあるのは分かる。分かるが、あの脳内お花畑人間のどこがいいんだと甚だ疑問でしかない。 初対面で「お前イケメンだな!名前なんて言うんだ?」と聞いてくる人間のどこが良いんだ。 もっさりヘアーの鬘を被り重たい前髪で顔の半分は覆われ、レンズ付きの伊達メガネをかけた奴が言う「人は見た目で判断しちゃいけないんだぞ!」の言葉ほど説得力のないものは無い。しかもそれ言う割にイケメンにばかり近づいている時点で矛盾している。 彼は権力者にも目を光らせているようで、生徒会長まで近づいてくるようになっていた。 「俺とお前は友達だからな!」 待て。お前の友達の定義どうなっている。 「何で生徒会室に来ないんだよ!俺がいるのに!」 お前がいるから行かないんだよ。 それと、生徒会室は一般生徒立入り禁止だ。勝手に入ってんじゃねえよ。 「友達なんだから一緒にご飯食べなきゃいけないんだぞ!」 だから友達じゃねえって。 いくら否定しても聞く耳持たない転入生に生徒会長は疲れていた。 あげく、生徒会長が自分に靡かないのは親衛隊の所為だなんだといちゃもん付けて親衛隊に牙を向く。 金魚のフンに成り下がった生徒会メンツはそれに乗じて親衛隊に冷たく接する。 仲裁に入る余裕の無い生徒会長は1人黙々と寮の自室で溜まった仕事を片していた。 生徒会長が転入生に惚れないというイレギュラーがありつつも、ここまでがよくある王道物語だ。 主人公は平凡な一般生徒か腐男子、もしくはチャラ男を演じてる会計ってところだ。仕事に追われる苦悩を描写した風紀委員会の誰かっていう線もある。 この後の展開としては、主人公総受けに持っていきなんやかんやあって生徒会も元に戻り、若干の転入生ざまあをし、学園に平和が戻りました。ちゃんちゃん。 ってところだろう。 だが、残念。 転入生ざまあには賛成だが、生徒会メンツを改心させるのは反対だ。 仕事をしない生徒会の代わりに請け負った仕事、過度な労働による体調不良、転入生の尻拭いともいえる親衛隊の沈静化、迷惑を被った風紀委員への弁明、全てにおいて迷惑かけられまくりでありがとうの一言も無かった生徒会メンツを誰が許すと思うか? 何度か話し合いの場を設け、チャンスを与えたのにそれを蔑ろにし転入生のケツを追いかけ続けた奴らを誰が許すか? だったら新しい人材を入れるから生徒会を辞めるか、公私混同せずに仕事はきちんとこなすか選択肢を与えた際に思っクソ罵倒してきた奴らを誰が許すか? さらに自分らのことを棚に上げて「生徒会長が仕事をしない」と吹聴してた奴らを“生徒会長”である“俺が”、 許すわけねえよなあ? 平凡でもチャラ男でも風紀でもない。 この物語の主人公は俺だ。 生徒代表として然るべき処分を下してやる。 チャンスは何度も与えた。考える時間も与えた。全ての選択肢を無残にも取りこぼした奴らの手なんてもう2度と掴んでやるものか。
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