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「なっ…なんでだよ、伊織!人に頼ることを怖がらなくていいんだ!俺を頼れよ!」
「頼るほど悩み事抱えてねえから」
「素直になれよ!竜聖のせいで苦労してんだろ!?
「別に何も無いから」
「俺だけは伊織の味方だからな!お前が悪いことをしたら友達として正しい方に導いてやるし、何があっても見放したりしないから!」
話にならなすぎて恐怖すら湧いてくる。
渋谷を盾にして転入生の視界から外れる。
「怖い、あいつ」
渋谷は俺より背が高いし肩幅が広いから意外にも俺の体はしっかり収まる。
あとは渋谷が勝手に動き出さないよう服をがっしり掴めば完璧だ。
転入生が突進してきたら渋谷を盾に逃げよう。
「?どうしたの渋谷」
「…いや、ごめん…自分と戦ってる…あと周りの視線が痛い…」
様子がおかしいのに気づいて渋谷に聞けばなんとも曖昧な返事が返ってきた。
さっきは頭痛が何かで頭を押さえていて、今は両手で顔を覆っている。
「伊織っ、何で隠れるんだよ!こっち来いって!」
嫌です。断固拒否。無理無理無理無理。
何なのほんと、怖すぎ。何でそんな俺に執着するかね。
狙い定めたら刺すまで許さない蜂かよ。
因縁付けてくるカラスかよ。
「おいラグビー部、そいつ押さえとけ」
「「「サー!イエッサー!!」」」
委員長の一声にラグビー部がすぐに動いて俺と転入生の間に壁を作った。
「七瀬」
「委員長、転入生どうにかしてよ」
「分かってる。渋谷に任せる」
「えー!?俺かよ!!やだよあんなモジャ男相手にすんのー」
「俺はこいつを保健室に連れて行く」
こいつ、とは俺のこと。
「保健室?何で?」
「手首診てもらえよ」
「手首、あ…忘れてた」
転入生に気を取られている間一度も腕を動かしていなかったから忘れていた。
さっきまで赤かった手首が薄らと青みを帯びてきていた。
「保健室行くんなら俺でも良くない?竜聖よりも俺の方がイオちゃんと仲良いのにさー。
あ、仲良くなりたいから?2人きりにさせろと?そういうイベント発生中なわけ?」
「あ?」
「ひぃっ、すんまっせん!じゃあ俺、あの怪物…じゃねーや、バケモノの気引かせとくから!任されたっ!」
怪物もバケモノも意味は変わらないと思う。
「ほら関係無い奴は教室戻れー。
戻んねえ奴はそこのゴリマッチョとちゅーさせんぞ」
「凪!俺は伊織と話がしたいんだけど!」
「はいはい転入生くんも教室戻ろうか〜。伊織くん怪我しちゃってんの」
「は!?怪我してたのか!何で!大丈夫なのか!?」
「んー殺意沸く」
「ほんとだよ!伊織を怪我させた奴ぶっ飛ばしに行こう!」
「わぁブーメラン」
「ブーメランで攻撃すんのか!」
ラグビー部を後ろ盾に転入生をうまく誘導していく渋谷とは反対方向に俺と委員長は歩き出す。
「手大丈夫か」
「動かさなかったら痛くないから」
「災難だったな」
「本当だよ。どうにかしてくれよ、アレを」
「どうにか出来るにならとっくにしている」
まあそうか。転入生の場合悪気あって風紀を乱している訳でもないからそういうタイプの人間に何か言っても一方的に因縁付けていると思われてしまう。
「委員長、何か嫌われてたね転入生に」
「知らねえよ」
「委員長めちゃくちゃ怒ってたし」
「は?別に怒ってはない。イラついていただけだ」
何が違うんだ。
元ヤン疑惑かかっている委員長。中学の時には先輩数人をぶちのめしたとか。そんな噂が出回っている。
さっきだって「腕折る」とか平気で言っていたし、噂はあながち間違っていないのかもしれない。
「ああ、同族嫌悪ってやつか」
「あ?何がだ」
「あのイケメンほいほいの転入生が委員長に靡かない理由。
委員長のことヤバい奴認定してんだよ。んで、転入生自身もヤバい奴だから同族嫌悪、って…」
そこまで言って空気が変わっている事に気がついた。
委員長の纏う雰囲気といううかオーラといううか。
冷たく張り詰めた様な感覚だ。
「へえ…同族嫌悪」
「いいんちょ…」
「心外だな。アレと同類にされるのは」
「えっと、あの、ごめん…いだだっ」
片手で頭を鷲掴みにされる。
くそっ、背だけじゃなく手もデカいのかこの野郎。
「お前の脳みそ潰してやる」
「ほらっ、ヤバい奴じゃねーか!」
頭に乗った委員長の手を退かそうと自分の手を挙げるとそれすらも掴まれた。
要領良いなコイツ。
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