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「捻挫だな」
保健室で手首を見てもらい、案の定捻挫と診断を受けた。
冷やしてからしっかりとテーピングが施され、暫く動かさないようにと言われた。
最悪なのが利き手だということ。
授業中にノートが取れなくなる。
これは死活問題だ。テストだってあるってのに。
「つーか普通に過ごしててどうやったら手首捻挫すんだよ。
生徒会長ってもんが」
「転入生と揉めた」
「ああ、納得。その転入生にやられたって奴らが良く来るんだよ。お陰で俺の仕事が増えてまあ大変」
窓際に寄った保険医は白衣のポケットから煙草を取り出し火を着けた。
白衣を着ていることで保険医と認識してもらえるが、それが無かったらただのチンピラだ。
髪はオールバックで、煙草を持つ手首にはアクセサリーがジャラジャラ付いている。かろうじて着ている白シャツもボタンは第三まで開いており、大人の色気というものが常に溢れ出ている。
こんな身なりでも保険医。そして生徒からの人気も高い。
名前を宮本宏也(ミヤモト コウヤ)という。
「おい学園内は禁煙だ」
「はいはい。細けえことは気にすんなって。
お前も吸うか?今のうちに練習しとけよ」
「いらねえよ」
学園の風紀を守る風紀委員長様の前でも平然と煙草を吸い続ける。この保険医かなり肝が据わっている。
窓を開けているから煙は外に流れるが、匂いはどうしても部屋の中に充満する。
煙草特有の匂い。俺は少し苦手だ。
煙は好きだ。真っ白なのが出てきてあっという間に消える。
煙草によっては煙を自在に扱って輪っかを作ったりも出来るらしい。
じっと見ていると宮本先生と目があった。
口から白い煙が出たあと俺に向かって「なんだ?用があるんなら聞くぜ。ベッドの上でな」と言ってきた。
「先生、俺喘息持ち」
「ばっ!!!!?それ早く言えや!」
宮本先生が慌てて煙草を窓枠に擦り付けた。
窓を全開にして風が通るようにする。
「ごめん冗談」
「はあ!?ブチ犯すぞテメエ!」
「今は大丈夫なだけ」
前に生徒会が使っている倉庫の掃除をしても大丈夫だったし。
大人になるにつれて良くなるとも言うから。
「喘息は完治しねえよ。何が発端になるかも分かんねえから、俺が煙草出した時点で言えよな」
「まず学園内で吸ってんじゃねえよ」
委員長のごもっともな意見に俺は心の中で拍手を送った。
「おいこっち向け」
「んあっ、!?」
宮本先生の声の方に顔を向けると、口の中に指を突っ込んで来やがった。
噛みちぎってやろうか、と咄嗟にそんな考えが浮かんだが真剣な眼差しを向けるから思いとどまった。
宮本は俺の口の中を覗いて、次に下瞼を捲って見て、額に手を当てたり、聴診器で心音を聞いたりしてきた。
なんだこれ。普通に診察されてるけど。
「お前飯はちゃんと食ってんのか?」
「…食べてるけど」
「栄養が足りてねえよ。貧血もみられるし。薬は?サプリは?何か飲んでんの?」
「何も」
「飲め。病院行って鉄剤貰って来い、ぶっ倒れんぞ」
ぶっ倒れるって…俺そんなやわじゃないし。
生徒会の仕事してた時だって具合悪い事があっても、倒れたりはしなかったし。何せ俺の救世主エナジードリンク様が常に側に居たから。
栄養が足りないのも自覚してる、まずは胃の調子を整えるリハビリから始めている。
病院に行く事は極力避けたい。
だって、ここは市街地から随分離れた所にある学園。
山1つ丸々買い取ったその中腹にある学園までの道のりは登山レベルだ。
バスは学園から出ているがそれでも市街地までは1時間かかる。
とてもめんどくさいのだ。
学園よ、考えなかったのか。
急病人が発生した時に救急車は1時間かかるんだぞ。
事件が発生した時は警察が来るまで1時間かかるんだぞ。
火事が起きた時はどうする?
消防検査含め諸々よく通ったな。
と、いろいろ学園には疑問があるが寮や学園までの道のり、学園内の至る所に防犯カメラが設置されているし、警備員も配置されている。警備に関しては万全の状態である。
いっそのこと診療所も作ってくれればいいのに。
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