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「まあ何かあったらここに来いよ。薬は出せねぇが診察くらいならしてやる」
「…どーも」
多分、今後は世話になる事は無いと思うが。
だって今日はたまたま先生がしっかり先生をしていたからいいものの。普段この保健室はいわば“そういう事”の場として使われている。
使っているのは勿論、宮本先生だ。
いい大人が何してんだ、と俺は呆れています。その現場に出くわすことなく卒業を迎えたいと思っています。
教師も学園の敷地内に寮があって、中々外に出られない事もあり溜まるのは分かるが。
勤務中にするのはどうかと思う。しかも未成年相手に。
同意の上だったら良いのかも知れないけど。俺には一切関係無いからそれ以上の事も詮索する気は無いが。
が!!!
「…首筋触るのやめてくれない?」
「いやー、いい首だよな」
「どんな首だよ」
「アザつけたくなる」
「くたばれ」
こいつ、俺をも食おうとしてやがる。
執拗に首筋を撫でる宮本の手を叩き落としすぐに委員長の後ろに回る。
「こいつをからかうな」
「あんだよ、もう風紀委員長のモンになってんのか?」
「違う。風紀として言っているだけだ」
委員長の背中から顔を出して宮本を見るとばっちり目があって、ウインクされた。イケメンのウインク程腹が立つものは無い。
委員長の背が俺より高くて良かった。あと強くてよかった。さあ委員長。いますぐその保険医の腕を折るんだ。今なら許可する。
「前々から気になってたんだよな。タチ3位に居ながらもネコ5位にもランクインした会長様を」
……タチ?ネコ?
「何それ」
「知らねーの?そりゃ珍しいもんだ。タチってのは、」
「いや違う。意味は知ってる。ランクインってのがどう言う事だ?」
この学園外の人間ならば意味すら知らず首を傾げる人が多いだろう。俺は中等部から通っているし、この学園独特の雰囲気にも慣れている。
タチやネコという意味は勿論理解している。
抱く側か抱かれる側かだろ?
いやそれよりも、俺は5位とか3位とかに説明を求めているんだ。
「人気ランキングとは違うのか?」
この学園には人気ランキングというものがある。
新聞部が票を集計し、それが年に2回校内の掲示板に掲示される。
人気ランキングは役員選出にも大きく関わっており、だから俺は生徒会長になった。
「新聞部が裏投票を募ってやっているランキングだ。結果はデジタル版の新聞で見れるようになっている」
「裏、投票」
「人気ランキングみてーに大々的に掲示したら教師やノンケ共の目にも入っちまうだろ。その辺の配慮はしてくれてんだよ。ま、全校生徒の約9割が投票してるらしーから認知度は高いけどな」
「それに俺がランクインしてる、と…?」
「ランクインした奴には新聞部から事前に話がいってんじゃねーのか?」
「知らないんだが!!」
そんな話!今まで一切!聞いた事ないんだけど!!!
何だそれ、学園非公式じゃねえか。俺非公認じゃねえか!
「特にネコに入った奴は狙われやすいから風紀から保護対象に入るらしーけど。その説明も風紀からされんじゃねーの?」
「は?」
委員長の顔を見ると、気まずそうに視線を逸らされた。
「…たしかに保護対象に入るが、お前の場合会長という役職もあって周りから一線置かれているし親衛隊もしっかり機能しているから大丈夫だと判断して何も言わなかった」
「え、まじで?今までよく無事だったなあ!」
「いや先生、笑い事じゃ無いんだけど…」
今までの俺はただのラッキーボーイだったって事だ。
襲われるがどう言う事を意味しているのかは分かっている。
つまりそう言う事だ。俺が襲われるって…想像しただけでも鳥肌が立つ。
何でそんな重要な事誰も言ってくれなかったんだ。というより何で知らなかったんだ俺。雰囲気とかで察しとけよ。
あれか?1年の時は部活に没頭していたから仲間ともそういう色恋の話をしなかったのが原因か?
「今まではタチの印象の方が強かったからな。綺麗な顔してんのに常に無表情の生徒会長様を襲う奴なんてよっぽどの物好きじゃなきゃ現れなかっただろうし。
だけど今回はどうだろうな」
「どうって?」
「お前の仮面が全校生徒の前で剥がれたんだ。ネコの順位も上がるとおもうぜ?おめでとう」
「いやいやいや、嫌なんだが」
そもそも仮面なんて被ってるつもりなかったし。
1年の頃騒ぎまくってたし。普通の健全男子高校生だったし。
会長の時はあれよ?やっぱ仕事中だからそれに相応しい態度とっていただけであって。TPOって言葉知ってる?
いや分かるよ。アイドルとかそういう人たちのプライベートが垣間見れた時にきゅんってする現象。
分かるけども。それでネコになるとは何てこったい。俺に親衛隊のような可愛い要素は皆無だ。何故だ。何故なんだ。
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