第1旅

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「むっ、こんなところに蚊が」 「あぁぁぁっと! ちょっと待ったぁ!」  両手で蚊を潰そうとしたヴォイチェフ。飛び起きたアランがその腕を目にもとまらぬ早業で掴んで拘束する。  そう。勇者アランは、虫一匹の駆除さえも許せないほどの博愛主義者であった。  現世の日本でいう第五代将軍、徳川綱吉が発布した生類憐みの令を体現したような性格と言えばいいのだろうか。  能力、体躯、容姿、どれをとっても一級品のアランだが、この性格だけは勇者として魔族を討伐するという使命には完全なる足枷となっている。  すらっとした長身、綺麗に整えられた黒髪は寝起きだというのに一切の乱れがない。軽く目にかかった前髪を手で横に流し、アランはその超人的な視力で蚊が窓から室外へと飛んでいくのを見送った。
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